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「難民とテクノロジー」カンファレンスの空気を切り裂いた、ある難民たちの話

IDEAS LAB
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エディターMakoto Saito
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ヨーロッパで最もクレイジーな人々を集める、ドイツのケルンで開催されたスタートアップのミーティングPirate Summit 2016では「Refugees and Tech(難民とテクノロジー)」と題されたトークセッションが開催された。

難民を支援するヨーロッパのNGO代表や、難民にプログラミング教育を提供するスタートアップReDI SchoolのCEO、Anne Kjær Riechertなどが壇上に上がり、それぞれの団体の紹介や最近の難民政策について議論を交わした。

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Anne Kjær Riechert

Anneは2月のQuartzのインタビューで「難民にコードを教えることは実際に有効な方法だと思う」語った。Pirate Summitでも彼女は、難民を助けるために雇用を創出しているわけではなく、増加が試算されるドイツIT業界の人材需要(現状は不足気味なのだという)をまるで救うかのように増え続けるドイツへの難民を有効に活用しようというポジティブな態度を訴えた。

またMigration HubのCEO、Ana María Álvarez Mongeも「"難民(refugees)"の話だと思わないで。私たちはそもそもはみんな移住してきた人間(migrants)なんですから」と自身の難民に対する姿勢を語った。

難民を多く受け入れており、今後もその数を増やしていくという国策を持つドイツにベースを置いている人々ならではのリアルな感覚が色濃く出た、特徴的なセッションとなった。だがこのセッションが会場にいた聴衆(そしておそらく登壇者たち)の度肝を抜いたのは、ひと通り彼女たちが話し終わったあとだった。

司会者が突如、観客席に座っていた青年に話を振ったのだ。「君の番だと思う、上がってきて話してくれ」。彼はKashif Kazmi、パキスタンからドイツに渡ってきた難民のひとりだ。

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Kashif Kazmi

訛りの強い、だがはっきりとした声で、観客を見据えて言った。彼自身が難民であったこと、それからこのセッションを聞いていて感じたことについて。彼のメッセージはこうだった。

Don't talk about refugees, talk to the refugees.

難民について話をしないでくれ、今まさにそこに存在する難民たちと話してくれ

そして、彼に呼応するように司会者の男性も話し始めた。彼はStavros Messinis。ギリシャのアテネのコワーキングスペースThe Cubeのファウンダーだ。

「目を閉じてほしい」と呼びかけ、とあるシリアの男性について話した。

想像してほしい。あなたはシリアに暮らしている。ある日、爆撃が街を襲った。

子どもは3人いる。仕事は失ってしまった。街が破壊されたからだ。


さて、どうする?


食べ物もないが、スーパーマーケットは開いてない。

ヨーロッパへ連れて行ってくれるという仲介人にコンタクトすると、ドイツに行くためには家族1人につき2,000ユーロかかるという。

「けっこうな金額だな」と思う。でもあなたは彼を信用できる人だと願うほかに選択肢がない。


バスに乗せられてシリアの国境を越える。トルコのどこかの街に到着した。彼はあなたたちをそこで降ろして言う。「明日いとこが迎えに来る」。

いとこは現れない。あなたはそのトルコの街に閉じ込められたのだ。

空腹、寒さ、子どもは走り回る。2日後、電話かメッセージが届く。「友だちがあなたたちを迎えに行くと言っています。でもそれには追加で2,000ユーロずつ必要なんですが...」。あなたはトルコから出たい。「イスタンブールへ連れて行きますよ」と言っている。


さあ、どうする?


「あなたを信用できない」とあなたは伝える。すると男は言う、「ええ、ええ!もちろんそうでしょう。でもね、信用できる弁護士の友人がいるんですよ」。

その弁護士に電話をすると「保証しますよ、でもそれには5,000ユーロが必要です」と言われる。次に友人に電話すると「ああその弁護士は信用できる、ぼくはドイツにたどり着いたよ」と言われる。

だからあなたは払うことにした。シリアにあった財産をウエスタンユニオンで送金、また送金。そのたびにあなたは自分自身の価値を失っていくように感じる。毎日みじめで不快な気分になっていく。子どもたちは日々失っていく。何を? 教育の機会を、学校の体験をだ。


それでもついに、あなたはトルコの海岸にたどりつく。仲介人が言う。「あの海の向こうの岸が見えますか? あそこが明日行くところです。安全なボートで渡りますから、またお金がかかりますが。さあ行きましょう」。船着き場まで車で行く。あなたは大きな船を想像している。でも実際にそこにあったのはいかだのような粗末なボートだ。30人くらいしか乗らない。そして途中で彼はまた17人を押し込んで乗せる。小さなエンジン、少人数しか乗れない船...。それでもやっとヨーロッパの小さい沿岸の村に着いた。そこで判明したのは、難民申請ができる場所までは75kmあり、しかも山の上だ。


こんな状態で、何十億人もの人がシリアやイラクから渡ってきている。大学で専門的な教育を受けたような人たちが、ある日突然こんなボートに押し込められるのだ。

赤ちゃんを抱えてボートを降りてくる人もいる。「メトロにはどうやって乗れば良いんだ?」、誰かが訊く。だがメトロに乗るためにはさらに数百ユーロが必要で、移動には4日以上かかる。そのうえ水も、食べ物もない。誰も助けてくれない...。


そして、これは私自身に起こったことなんだ。

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Stavros Messinis。普段は口数が多く、冗談好きなリーダー気質の人物だ

現在も中東の治安と人々の生活は悪化し続けている。高度なテクノロジーを使った兵器、安く手に入る武器、たやすく人を洗脳する動画、戦闘員たちをつなげるSNS。人の生活を便利にすると同時に、戦闘をお手軽なものにしている片棒をテクノロジーが担いでいることも否定できないだろう。

ISISは遠隔操作できる自動車での自爆テロを研究している。テロリストの温床だとTwitterが訴えられたこともあった。先日はホビードローンに搭載された爆弾で兵士が命を落とした。

反対に、ビットコインで知られる最先端テクノロジー、ブロックチェーンは難民の身分証明として機能し彼らの生活を助けるかもしれない。バーチャルリアリティ(VR)を使った映像は難民への寄付額を従来の1.7倍にも増やした

テクノロジーが道具である以上、必ずダークサイドは存在する。そしてその犠牲になっているのは、ヨーロッパへ生命を賭けて海を渡る難民たちなのだ。であれば、彼らを救うのもまたテクノロジーであってほしいと思う。