50年前と現在の光アートの変化とは? 女性アーティスト集団Hyphen-Labsの掲げるデジタルのフェミニズム
ARTS & SCIENCEHyphen-Labsは、テクノロジー分野で活動する女性アーティスト集団だ。グローバルなビジョンとユニークな見地から、どうすればアートを有意義でエモーショナルに働きかけられるかを考えている。さまざまな作品を通じて、慣習に挑戦しながら世の中に刺激を与えているHyphen-Labs。今回は彼女たちの活動を紹介しようと思う。
まずはこちらの作品「Prismatic_NYC」を見ていただこう。Hyphen-Labsがテクノロジーデザイン面で関わった作品の一つである。
ニューヨークのハイライン・パークに沿って25mにわたり設置されているこの光の作品は、60年代のダン・フレイヴィン(Dan Flavin)のアートを思い起こさせる。フレイヴィンの光はカラフルだが、蛍光灯がゆえにその一色一色が絵具のような形で混ざり合うことはなかった。
フレイヴィンの蛍光灯アートは、歌でいうところのビートルズの『レディ・マドンナ』だったのかもしれない。『レディ・マドンナ』を例とする母親の気質とは、歌詞にあるように「いったい、どうしてやり繰りをしているのだろう」と思わせるほどてきぱきと役割分担されたものだろう。彼女たちはカラフルな心をしているが、決して色は濁らない。蛍光灯のようにどんどん色(家事や子育て)を切り替えていくのだ。それと同じく、フレイヴィンの多様な光の演出もまた、単色の光の組み合わせによる結果だった。
現代の光アートは絶えず変化し続ける
しかし、それは光が「静止」していた時代の話。今回の「Prismatic_NYC」の光ディスプレイは、文字通り動くし、キネティックなのだ。66本の角柱につけられたLEDが実に4万色を提供し、それらがモーターで動く仕組みである。角柱が止まることなく波形にうねる様子はとても幻想的で、その場の状況を絶えず変容させる。このパフォーマンスは天候の具合、たとえば風速、湿度、降雨量などによって変わるよう調整されているとのこと。さらにカレンダー機能もついていたり、日の出や日の入り、潮の満ち引き、月の満ち欠けも把握しているというから驚きだ。

現代の光アートは画期的なテクノロジーにより、ここまで知覚する知能を身に着けたのだ。そこには、まさに一昔前の『レディ・マドンナ』的な思考とは違う雰囲気が漂っている。光というのは女神のシンボルでもあるが、そうした一つの女性像をこのデジタル社会において進化させるのが、Hyphen-Labsの仕事なのかもしれない。
テクノロジーの進化に女性を提案していく試み
つづいて、Hyphen-Labsは「Neuro Speculative Afro Feminism」と題したVR映像をサンダンス映画祭やSXSWで発表している。この作品で彼女たちは、デジタルの多次元世界になかなか登場しない黒人女性をあえて存在させるべく、そのシチュエーションとして未来のビューティーサロンをつくり上げたそうだ。
Hyphen-Labsが目指しているのは、トランスヒューマニズムの柔らかさではないだろうか。トランスヒューマニズムとは、新しい応用科学の技術を用いることで現在の人間の身体能力や認知能力を進化させ、向上させようという思想だ。それによって私たちは、健康に生きられる期間が延びたり、心的状態や気分のコントロールもできるようになるだろう。しかしこうしたトランスヒューマニズムの発想は、ある意味で知的エリートが好むような合理性だけに特化しようとする。どちらかというと白人的、もしくは男性的な概念だといえるかもしれない。
女性が今いる環境より一歩未来を目指し、ハイテクになるとしたら、それはいったいどんなカタチだろうか。それについて考えたとき、Hyphen-Labsの考案した世界はとても腑に落ちる部分がある。なぜなら先に挙げたビューティーサロンの作品「Neuro Speculative Afro Feminism」もそうだし、他にもたとえばデジタル技術を駆使したシームレスの服を作ったりしているからだ。
男性性や性別差別の問題が浮き彫りになるデジタルの進化の隙間から、女性像がこぼれ落ちていくのを防ぐべく新しい道筋を提案する。それがHyphen-Labsの目指すものなのだろう。
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