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12#音楽の敵、音楽の味方

Linkin Park チェスター・ベニントンの死が意味する"重さ"

DIGITAL CULTURE
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音楽ライター沢田太陽
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7月20日に突如として事件は起こった。

世界的人気バンド、リンキン・パークのヴォーカリスト、チェスター・ベニントンの突然の自殺にまだ世界中が揺れている。それが、彼自身が個人的に敬愛し、同じく5月18日に自ら命を断った、90年代のグランジ・ムーヴメントの立役者、サウンドガーデンのクリス・コーネルの死からわずか2ヶ月(しかもチェスターの命日はクリスの誕生日)での出来事であり、ロック界に与えた打撃は計り知れない。

それにしても、この2つの死の苦悩に満ち方。それは同時に昨今のロックの悩める状況の傾向と同調するものがあるかもしれない。

これが仮にヒップホップだとしたら、果たしてこのような死の選択の連鎖反応というのは生み得たことだろうか、と考えると、どうしてもそのような感じがしないからだ。この違いは一体何なのか。それを突き止めてみようと思う。

ロック、とりわけクリスやチェスターの属するところのオルタナティヴ・ロックとヒップホップは90年代には共に似た境遇にあった存在だ。

現実逃避的で享楽的なエイティーズの感覚がもはや通用しないことを証明したヘヴィでシリアスだったこの両ジャンルは、瞬く間にアンダーグラウンドから一気に時代の寵児へと躍り出た。さらに両シーンの立役者、ニルヴァーナのカート・コバーン(1994年没、享年27)、ヒップホップはトゥパック・シャクール(1996年没、享年25)とノトーリアスBIG(1997年没、享年24)に至っては、人気絶頂の頃にその命を失いまでしている。

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だが、この2つの音楽は、その後の展開がまるっきり違う。

カートの死後、ロックは必ずしも日常生活の暗い現実を歌うものではなくなったが、エイティーズの頃のような拝金主義的なド派手なロックスターがシーンに返り咲くこともなく、憧れられすらもしなかった。

一昔前ならミリオネアやビリオネアへの成り上がりが、キャリアのピークやステイタスとなり得たが、90年代のグランジ・ムーヴメントを境に、派手なロックのライフスタイルはすっかり過去のものとなっていた。そして、カート以降のロックスターたちにとって金や名誉というものはキャリアのゴールではなくなったし、物質的な豊かさがアーティストの気持ちを満たすこともほとんどなくなった。

ましてやクリス・コーネルはそんなグランジ・ブームの渦中に活躍した存在であり、チェスターはそんな時代のロックに深い薫陶を受けて育った精神的な子弟でもあったのだ。

そして、それが故にアーティストたちの精神、心の充足が見つけにくくなったのもまた事実だ。

黒人のラッパーたちの場合は生まれ育ちの境遇が恵まれない激貧状態からは這い上がった人たちが少なくないため、サクセスを斜に構えて見るようなことが少なく素直に享受する姿が多く見られる。そのためか、白人のロックの世界に頻繁に聞かれるようなドラッグのオーバードーズ、もしくは自殺という話をこの世界からはあまり耳にしない。もちろん、「かつての大スターが凋落」と言う話は、昨今のDMX、ジャ・ルール、(シンガーだが)R・ケリーの近況でも聞かれるようにありはするのだが、それはどちらかというと、かつてのMCハマーのように「成功で有頂天になった後に散在し倒した後に破綻した」というパターンが目立つ。それでも「自殺した」という話はほとんど聞かない。そもそも、トゥパックやビギー(ノトーリアスBIG)にせよ死因は暗殺だったわけだし。

またヒップホップの場合は、ヒップホップ・アーティストとして成功後の次のモチベーションも用意されている。そのひとつが俳優業で、ウイル・スミスやアイス・キューブを足がかりに、この方向転換で成功する例も少なくない。そうしたこともあって、まだ「40代以上の現役ラッパー」という存在も多くなく、次の世代のアーティストが生まれやすい。

そこへ行くと、ロック・アーティストというのは、そうした「次のキャリア」みたいなものがない。

成功しても人生の充実を感じ切ることなしに、「アルバムを作ってはツアー」の繰り返し。それが60代になっても70代になっても続くのがほとんどだ。そんな人生の中でも確実に「創作者としてのピーク」というものが避けがたく存在し、ファンからはその「過去の輝いていた自分」と今の自分が常に比較される現実がある。

リンキン・パークの場合も、4〜6枚目のアルバム・セールスと評価がヒット曲満載だった最初の2枚ほどではなかった。今回の7枚目のアルバムではEDMに接近しフィーチャリング・シンガーまで起用した結果、ファンや批評家からの評判は悪かった。その批判の波は大きく、ネット上でもかなり目立ったものにさえなっていた。それは当然チェスター本人の耳にも入り、彼自身、ファンの反応に傷ついた胸の内をツイッターで吐露する一幕もあったほどだった・・・。

苦悩を吐き出すタイプの音楽で成功のはけ口がはっきりしないまま、創作者としての孤独にも向かい合わないとならない人生。チェスター・ベニントンの死は、そんな現在のロックスターのライフスタイルが潜在的にかかえるプレッシャーの犠牲なのかもしれない。

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