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クラウドファンディングで日本人クリエイターは何を得ているのか? MotionGallery | popcorn 大高健志

IDEAS LAB
コントリビューター近藤多聞
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日本のアート環境を考える際には、「モノづくりとおカネ」の問題は避けて通れない。若手のアーティストからベテランまで、資金繰りには困難を抱えており、資金のショートによりプロジェクトが頓挫することも少なくない。

そんななか、2011年にクラウドファンディング(不特定多数からの資金調達)プラットフォーム、MotionGalleryが登場した。

MotionGalleryは、ほかのプラットフォームと比べて手数料が飛び抜けて安く、なにより「文化の醸成」を第一義として主にアート関連の案件を取り扱っている点が特徴だ。

MotionGalleryを立ちあげたのは、当時東京藝術大学大学院に在籍していた大高健志氏だ。大高氏は、藝大在籍中に「モノづくりとおカネ」の関係を健全なものにする必要があると考え、MotionGallery設立を決意したという。

大高氏は現在、新たな上映スキーム、製作スキームにも着手している。どのような思いからこうした活動を始め、何を目標としているのか、大高氏にインタビューを行なった。


——まず、キャリアの最初に外資の戦略コンサルタントを選ばれた理由をお聞きしたいです。

大高健志(以下、大高):元々、海外の美大の院に行ってから、つまりアカデミックな領域を勉強してから映画・アート業界に進む必要があるかなと思っていました。

それを実現させるためには2年分の学費を稼げて、かつ英語が身につく環境で3年ぐらい働いてみるのがいいのではないかと思い、さらに副次的にはビジネスのことも勉強できるだろうという理由から外資のコンサルを選びました。

——コンサルタントをお辞めになって藝大に行かれてから、「製作者にお金がない」という問題意識を抱えるようになったそうですが、「おカネとモノづくりの関係性」に取り組むにあたって、クラウドファンディングを選ばれたのはなぜなのでしょうか?

大高:僕が「おカネとものづくりの関係性」について考え始めた頃は、クラウドファンディングは日本に存在していませんでした。アメリカではちょうどクラウドファンディングが立ちあがりかけていた頃でしたが、日本には寄付文化も、文化支援の土壌もないからうまくいかないだろうね、という意見が大半だったんです。

ちょうどそのとき、藝大とフランスの映画大学院の交換プログラムがありました。

フランスの映画人と話すなかで、日本を拠点に映画制作をする際には、英語圏からすると小さいパイながらクオリティと伝統で勝負するフランス型の映画制作が非常に合っているなと思うようになりました。

ただいっぽうで、フランスと日本では戦い方のルールがそもそも違うなあ、と痛感しました。彼らは、大学を出てからもコンスタントに作品づくりを続けられるため、企画段階から3〜4作品のポートフォリオで考えて自分たちの作家性をマネジメントしています。日本は10年やってようやく1本取って、その1本にかけるというのに近い状況です。

フランスがうまくいっている理由は、国の助成がものすごくしっかりしているから。日本でも同様の助成があればいいのに、と思いましたが、現実的には、芸術系の助成金を拡充するというのは難しいのではないかと感じました。

そんななかで、日本でも継続的にアート活動を行なっていくためには、クラウドファンディングが民間版の助成システムになりうるのではないかと思いました。

クラウドファンディングの重要なところは、単純な出資ではないこと。根源的なところでいうと、投資でお金を集めるのは、集めたお金に対してお金で返すというスキームです。たとえば、自分が投資としてお金を出すとき、自分は100%尊敬している監督の作品だけどマスにまで届いていないので絶対にリクープ(元を取ること)できない映画と、自分は感銘は受けないけどマスにウケて絶対にリクープできるような映画のどっちに投資するかといえば、後者に投資するのが合理的な判断だと思います。

であれば、単なる投資ではない、体験とか参加、意思表明のような要素がインセンティブになれば、「本当に自分がいいと思うものにお金を出そう」というコミュニケーションが生まれるのではないか。そう思って、クラウドファンディングをやってみようという決断にいたりました。

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6年目を迎えたクラウドファンディングサービス、MotionGallery

——MotionGalleryにおけるクラウドファンディングは、「出資者」と「ファン」の中間層を生みだす、非常に新しい試みなのかなと思っています。この部分に関してはどれぐらい成功していると考えていらっしゃいますか?

大高:元々ビジネスマインドで始めたサービスではないので、そんななかで6年続いているのはとてもありがたいなと思う反面、「ビジネスとしてものすごくうまくいっている」という訳でもありません。ここ数年、クラウドファンディングというのはバズワードになっていますが、その根源的な価値を社会一般に伝播させることはまだできていないかなと思っています。

特に最近は、テクニカルなマーケティングの一手段としてクラウドファンディングは位置づけられていて、僕はここに対しての違和感があるので、「なんとか是正していければ」と考えています。

——大高さんのように、ビジネスではなく「文化育成のための民間助成」を根底としてクラウドファンディングに取り組まれている方は少ないと思っています。そんななかでどのように戦っていこうと考えていますか?

大高:クラウドファンディングという概念の核は、お金を出した人の満足感、ある種の成功体験かなと思っています。これを継続的に続けて大きくしていくということが一番大事です。だから、コミュニティづくりのような、一見地味でスケーラブルじゃなさそうなことを、愚直にやっていくしかないのかなと思っています。

Video: MotionGallerys/YouTube

大高:そもそも文化をテーマにしている時点で、それ以外に方法はない。いわゆる「商法としての」クラウドファンディングだと、飲食店のような一次欲求を訴求するプロジェクトが多く、「クラウドファンディングだと商品が定価より安く買える」というインセンティブを与えてお金を稼ぐのが一般的になっています。でも、文化の領域ではそういった射幸心を煽るやり方はあまりそぐわない。なので、顧客創造を地道にやっていかない限りは未来がない。

最終的には、映画を観る人、音楽を楽しむ人、演劇にいく人、本を読む人、自分たちで新しい場所づくりをする人、の人数を増やしていくものなわけで、文化の促進・社会の多様性の促進という本来のゴールにも一致するかなと思います。

僕が好きなたとえがあって、ハスの花って泥の濃度が高いほうが綺麗な花が咲くんだそうです。そういう風に、プレゼンターと我々MotionGalleryが一緒になって見えないところでしっかりと汗を流すことが大事なんだと思います。そういうことしっかりやっていかないとお金が集まりませんが、集まり始めたら指数関数的に広がりを見せていく。オフラインだと100が上限だったものが200、300にもなっていく。

だからまずは100にするための地道な努力が必要です。それを僕らがいかに作れるかが大事なんだということがこの事業を始めてわかってきました。今では企画のお手伝いからマーケティングのプラニングなど、コンサルタントチックな領域までなんでもやっています。最初はプラットフォームのようなことしかやっていなかったけど、今はもうちょっと、顧客とのエンゲージメントを増やして、コミュニケーション全体をデザインすることを志しています。

——MotionGalleryは、ほかのファンディングサービスと比べて、どういうところを特徴としていますか。

大高:まず、創り手のサポートがサービスの根幹のため、スタート当初から一貫して10%の手数料で運営しています。日本では一般的に15%〜20%なので、結果的に国内最安値になっています。また、プロジェクトの達成率は60〜70%。ふつうは20%前後なので、胸を張れる実績だと思っています。そこには、先ほど述べたような価値が寄与していて、顧客とプロジェクトのあり方を考えるところから伴走しているのが大きいです。

もうひとつは、MotionGalleryは雑誌メディアのようなものなのかなと思っています。無理矢理広告で人を集めるのではなく、サイト自体にしっかりとファンを集めるようにした結果、「MotionGalleryでファンディングしているなら応援してみようかな」という人も増えてきてくださっています。「自分のプロジェクトにどのプラットフォームで人を集めるか」というのは、プロジェクト側からするとひとつのブランディングになると思うんですね。その観点からはある程度成功していて、クリエイティブでクオリティの高いプロジェクトがMotionGalleryに集まっていただいているのだと思っています。

映画上映サービスpopcornが目指すもの

——popcornについてのお話をおうかがいします。まず、どういった問題意識でpopcornを始めたのでしょうか?

大高:MotionGalleryを始めて、ある程度軌道に乗ってきてから、「ファンディングに成功してお金を集められたけどリクープはできなかったね」と監督やプロデューサーから相談を受けることが増えました。自分には興行の世界はわからないので、何がボトルネックなのかをいろいろ聞いてみたところ、地方の興行が圧倒的に弱くて東京でしか稼げないとのことでした。なおさら、「地方のミニシアターに行く人を増やさないといけないな」と思ったんです。

いっぽう、MotionGalleryの人気プロジェクトを見てみると、若い人たちが地方に移住して本屋を作ったり、バーやレストランを作ったりといった、リノベーション系の活動が盛りあがりを見せていました。アート文脈で見ると地方は盛りさがっているけど、コミュニティ文脈でみると盛りあがりを見せている。この相反する動きが重なりあうと面白いな、と思っていました。

場所作りをしている人の声としては、「場所ができてコミュニティもできてきたけど、集まったなかでやることが少ないので、映画を上映したい」というものがあることに気づき、「じゃあ、ここをつなげたら両方の悩みが解決するのではないか」と思いました。

リノベーション系の活動に携わる人は、シネフィル(映画狂)ではない人も多かったから、地方のミニシアターともカニバリゼーションを起こさず、逆に映画人口を広げることができるのではないか。そのようにして、そういう小さな場所で、定期的に上映会ができる仕組みがあれば面白いなというのが非常にいい循環ができるのではないかと考え、popcornを立ちあげました。

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——反響は、大高さんの思われている以上にありましたか?

大高:今年の4月にスタートして、立ちあげた当初は、今年中に最初は50作品、100か所でできればいいかと考えていましたが、現在までで120作品、200か所の上映規模となっています。思ったより大きな反響でした。ここからしっかりとした文化にするためのチャレンジはまだまだあるので、これから頑張るところです。

——「地方と都市の文化格差」はさまざまなところでやり玉に挙げられていますが、どこが問題だとお考えでしょうか?

大高:結局、「地方と東京」というわけ方をして、別物と考えてしまうのは正しくなくて、単純に人口の差によって表層的にそう見えるだけなのではと思っています。

popcornやMotionGalleryの関係で各地にお邪魔する機会も増えましたが、地方も文化感度が東京と同じくらい高いと感じることが多かったです。たとえば長野に行くと、ダンスや身体表現がものすごく盛んです。和歌山などで映画の話をしても、映画館に年に1回しか行かないという人が、東京でシネフィルしか知らないような作品について話していたりしました。Facebookで友人から東京の情報を手に入れたりして、地方でも文化的な環境を作りあげたいと思っている人は今沢山いました。でも、東京と比べると、そういう文化的な活動に興味をもつ人の出現確率は同じだけど人口の分母が違うので、そのような催しを実施してもリクープラインに載るほどの人が集まらないから継続が難しいね、というのが実際のところなのではと思うのです。

その状況はもはや「地方だから」ということに限った現象ではなくて、これからの全国共通の現象になってくるのだと考えています。情報革命以前の時代は「マス」に何を届けるか、という競争でしたが、情報過多の現代はキュレーションやカスタマイズの重要性がどんどん高まり、マスがどんどん融解していく時代だと思う。今だとテレビもあればFacebookもあって、情報へのタッチポイントもかなり広くなってきていますよね。

だから、マスという薄く広くの世界から、マスの論理だと切り捨てられてしまう小さく深いコミュニティにしっかりとコミュニケーションをするのが大事になってきます。そういったコミュニティを合わせると、全部で大きな塊になる。その手段として、popcornは大きなチャレンジだと考えています。

——MotionGallery Studioについて、こういうサービスを求めていた人は多かったはずですが、その分いろんなアイデアが集まってきてしまうのではないでしょうか。それをどう選りわけていくのですか?

大高:単純にお金が集まりそうという話よりも、まずはひとつの映像作品として面白いものになりそうか、というところで判断しようとしています。「お金が集まりそう」という理由だったらこのサービスでやる意味があまりないので、クオリティや多様性を重視していきたいなと思っていて、そこはブレずにやっていきたいです。

——popcorn、MotionGallery Studioを立ちあげたことで、お金を集めて、作品を作り、人に見せるところまで、MotionGalleryをハブにして行なえるようになっていました。今までになかったワンストップのクリエイティブなビジネスが実現できるのかなという風に思っています。

大高:そこは僕自身面白いところだなと思っていますが、実は、考える暇もなくいろいろやっていたらいつの間にかそうなっていたという(笑)。いろんな人との信頼関係で生まれていった話も多く、いわばある種のアクシデントで生まれたところもあったりして(笑)。

「戦略的に考えていく」というものでもなく「できることをまずやっていく」というところを突き詰めた結果なのかなと思っています。自分自身、元戦略コンサルタントとは思えない戦略性のなさだなと呆れることも多いです。

——今後大高さんが取り組んでいきたいことはどういうことでしょうか。

大高:面白いものを神経を注いで作った人がもっと賞賛されるような世の中の仕組みづくりができればいいなと思っています。僕は「一億総クリエイター」という言葉に違和感を感じるのですが、単に表現活動のハードルを無目的に下げることはいいことだとは思えません。言ってしまえば、表現活動に対しての覚悟がないものがクラウドファンディングでお金を集めて、その状況が「クラウドファンディングで自由な社会を実現」と呼ばれてしまうのはすごく嫌なんです。セルフブランディングを目的としたものではなく、意志や想いが篭ったものが評価される社会になって、みんながものを考えて勉強して、社会活動ができればいいなと思っていますね。


イランの巨匠、アッバス・キアロスタミ監督の『ライク・サムワン・イン・ラブ』や、新進気鋭の濱口竜介監督の『ハッピーアワー』(ロカルノ国際映画祭・最優秀女優賞受賞)は、MotionGalleryを使って資金調達を行ない、世界中の観客から絶賛された。

自主制作映画の製作・配給から地方のカフェのリノベーションまで、名前は知られていないながらもMotionGalleryのおかげで作品を世に送り出すことができた人は多数おり、MotionGalleryはすでに文化の担い手として大きな役割を果たしているといえる。

MotionGallery Studioやpopcornを使って、資金調達から製作、配給まで一気通貫で行なえるようになれば、さらにさまざまな作品が世に送り出されるだろう。

今後も大高氏の活動から目が離せない。