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世界三大映画祭に日本人が行く。ヴェネツィア/カンヌ/ベルリンが後世まで人を映画漬けにできる理由

ARTS & SCIENCE
コントリビューターSCQIC
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映画に対してアンテナを張っていると、「カンヌ国際映画祭で話題沸騰!」「ベルリン国際映画祭で受賞!」といったように、メディアを通じて世界三大映画祭の名前を目にする時期が毎年来る。

だが、世界的な映画祭が今何をしているのか、どういう雰囲気なのか?といった、具体的な部分について詳細に語られることは少ない。

ひとくちに「三大映画祭」といっても、それぞれの映画祭で雰囲気からロケーションまで、すべてが異なる。そしてどの映画祭も非常に楽しいのだ!

世界中の映画ファンと業界人が一堂に会し、映画を共通言語にしてあれこれと議論を交わしたり、スクリーンの向こうのスターが目の前に現れる様はまさしくお祭だ。映画ファンにとっては垂涎モノである。そして、より多くの人に参加してほしいと考え今回この記事を書くにいたった。

参加条件や会場の様子、チケット入手方法について、実際に行ってきた順でもあるヴェネツィアカンヌベルリンの順番にレポートし、全体的な印象と留意点をまとめていく。

ヴェネツィア国際映画祭から読む

カンヌ国際映画祭から読む

ベルリン国際映画祭から読む

ヴェネツィア国際映画祭

2016年、イタリアへ一人旅をした。ちょうどヴェネツィア国際映画祭が開催されていたので、当時いち映画ファンだった私は「せっかくだし行ってみよう」と軽い気持ちで参加した。

この年のヴェネツィアは大変な当たり年だ。『ラ・ラ・ランド』『メッセージ』『ハクソー・リッジ』『ノクターナル・アニマルズ』と、日本でも話題になった映画が立ち並んでいた(最高賞の金獅子賞は、世界中のシネフィルがいま最も注目している映画監督のひとり、ラヴ・ディアスの『立ち去った女』だった)。

あまり知られていないが、この映画祭でワールドプレミアとなる映画には、毎年アカデミー賞レースに絡む作品が入ってくる。ここ数年の傾向を見ると、カンヌやベルリンとの差別化の意味合いも込めて、ハリウッド系の作品を集めているようだ。すなわち、ヴェネツィアに参加すれば、よりオスカーに距離の近い作品がいち早く観られるのだ。

映画祭記事写真3

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Image: SCQIC

会場

会場はヴェネツィア駅(Stazione di Venezia Santa Lucia)からヴァポレットという小型の船に乗って20分ほどの島、リド島(Lido S.M.E)にある。船を降りた瞬間から金獅子のモニュメントに出迎えられ、お祭り気分を盛り立ててくれる。

ヴェネツィアは、メイン会場であるサラ・グランデと6つのサブ会場によって構成されている。サラ・グランデでは主にコンペ作が、サブ会場ではコンペ外の作品が上映される。会場のキャパは、2,000席弱と非常に広い。

船を降りたら、歩いて15分ほどで会場に着く。23時すぎに最終船が出てしまうので、夜中の上映が見られない点が玉にキズだ。

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Image: SCQIC

なんといっても、スターたちへの近さがヴェネツィアの魅力である。ヴェネツィアにはプレス枠ではなく一般人として行ったが、レッドカーペットの周りに柵が敷かれていないため、この距離でアリシア・ヴィキャンデル(『エクス・マキナ』『リリーのすべて』)を見たり、

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写真左から2番目がヴィム・ヴェンダース
Image: SCQIC

ワールドプレミアに参加できるため、この距離でヴィム・ヴェンダース(『ベルリン・天使の詩』『パリ、テキサス』)を目にしたりと、一般人にひらかれた映画祭だといえる。

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Image: SCQIC

参加方法

ヴェネツィア国際映画祭は、後述するカンヌと違って、一般人でも参加できる。方法は非常に簡単で、映画祭期間の2週間ほど前から公式サイトで売り出されるチケットを買い、予約確認メールをプリントアウトして会場に持っていくだけだ。プリントアウトを忘れても、予約確認メールを見せれば「次はちゃんと持ってきなさいね」で入ることができる。人気監督の作品はすぐ売り切れてしまうので、スピードが勝負である(私は『メッセージ』や『ハクソー・リッジ』を観逃してしまった)。

チケットの値段は、上映回によって異なる。監督や俳優が登壇するメイン会場サラ・グランデの夜の上映は45ユーロ(約5,000円前後)だが、そのほかの場合8〜15ユーロほど(約900〜1,700円)と、手ごろな値段で映画を楽しめる。

五感で映画祭を楽しむならヴェネツィアへ

ヴェネツィア国際映画祭を語るうえで欠かせないのは、映画を審美的に鑑賞するというよりも、純粋に映画を楽しもうという姿勢が観客に共有されていることだ。私は『ラ・ラ・ランド』のワールドプレミアを観たが、オープニングのパフォーマンスシーンが終わった瞬間、ほとんどの観客が立ちあがり30秒ほど拍手をし始めた。まさしく海外映画祭ならではの体験で、これを経験するために私はヴェネツィアまで来たのだ、と興奮したことを覚えている。

また、ヴェネツィアは三大映画祭のなかでも、最も五感で楽しめる映画祭だ。ヴァポレットに乗って地中海の風を感じながら、スケジュール表を見て「今日は何を観ようか」と考える。リド島に着いたら、安くて美味しいパスタやピザを屋外テラスで食べ、背後で記者たちが映画談義をするのを小耳にはさむ。このように、映画祭そのものも去ることながら、映画祭に到着するまでの過程すべてを全身で楽しめるのがヴェネツィアの素晴らしい点だ。

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Image: SCQIC

カンヌ国際映画祭

まず、カンヌ国際映画祭は映画祭の王様だ。世界中の映画人はカンヌのコンペティション部門に出品することを一つのゴールにしていると言っても過言ではないほど憧れの的であり、アカデミー賞と並んで世界の映画トレンドに最も影響力のある映画祭だ。

私は2017年のカンヌに参加した。2017年はちょうど開催70周年で、映画祭を祝福する熱気が渦巻いていた。連日連夜、各地でパーティーが開かれ、世界中の人々が映画を共通言語として繋がる温かな空気が広がっていた。私が忍び込んだアジアの映画人の交流パーティーでは、ジャ・ジャンクー、パク・チャヌク、ポン・ジュノ、黒沢清といったアジアのスター監督が一堂に会しており、大興奮だった。

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Image: SCQIC

会場

会場の最寄駅であるカンヌ駅(Gare de Cannes)は、シャルル・ド・ゴール空港から電車orバスで1時間ほどのところに位置する。

カンヌ駅からメイン会場のPalais des Festivals et des Congrèsまでは徒歩10分ほど。メイン会場入り口には身体検査のゲートが設けられ、入場の際にはボディチェックされる。昨今のテロの影響もあり、かなり警備は厳しくなっているようだ。Palais内には以下6つのシアターが用意されている。

Lumière:席数2,000超の、メイン会場。コンペ作品のワールドプレミア&監督・俳優登壇はこの会場で行われる。名前は映画の発明者リュミエール兄弟から。

Debussy:主に「ある視点」部門の作品を上映。Lumièreの次に大きな会場。名前はフランスが誇る20世紀で最も偉大な音楽家の一人、ドビュッシーから。(ちなみにドビュッシーの「月の光」は最も映画で使われている曲だとか)

Soixantième:コンペ作品のワールドプレミア以降の上映はこの会場で行われる。invitationが必要ないため、上映の1時間前ほどから数百人が並び始めるなど、かなり競争率が高い。

Buñuel:Cannes Classicsの上映や、著名監督による講義(MasterClass)はこの会場で行なわれている。名前の由来はスペイン出身・後にフランスで映画を撮った巨匠、ルイス・ブニュエルから。

Bazin:「ある視点」部門のワールドプレミア以降の上映&プレス試写はこの会場で行われる。名前の由来は最も権威のある映画批評雑誌カイエ・デュ・シネマの初代編集長、アンドレ・バザンから。

The cinema de la plage:砂浜の上にスクリーンを作った、野外会場。(下写真)この会場がとにかく素晴らしく、私はビール片手にドゥニ・ヴィルヌーヴ(『メッセージ』)の処女作を観た。気候の良さも相まって、今まで経験したことのないぐらい素敵な映画体験となった。

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Image: SCQIC

参加方法

言っておかなければならないのが、カンヌ国際映画祭には一般の方々が参加することができないということだ。「映画祭の王様」だけあって、ヴェネツィアベルリンと比べても圧倒的に多くの映画関係者が来場するためなのだが、非常に素晴らしい映画祭だけに、大変残念である。

よって、参加方法は、以下4つのいずれかのバッジを手に入れること。私はPressバッジで参加した。

Festival:映画祭で上映される映画に関係する人々のためのパス

Market:配給会社・制作会社などの、映画祭で上映される映画を売買する人々のためのパス

Press:ライターやフォトグラファーとして、映画祭をメディアに露出させる人々のためのパス

Cinephile:学生や映画に関連する機関に属する人々のためのパス(※メイン会場には入れず、メイン会場周辺の映画館で上映される作品のみ鑑賞可)

バッジの配布所は18時までオープンしているはずなのだが、私が行った日はなんと17時半で閉められてしまっていた。出遅れ組で結託し「まだ受付は終わっていないはず、俺たちは映画が観たいんだ!」と抗議して、しぶしぶ開けてもらったが、このようにカンヌの運営は早めに店じまいしたがるときがあるので、早め早めの行動がベター。

Pressバッジは、ほとんどの上映に際してチケット不要だが、Pressバッジの来場者以外は別途チケットを手に入れる必要がある。予約は、観たい作品の上映前日にインターネットか会場で行なう。ヴェネツィアと同じく、こちらも人気作は予約開始後数分で完売になってしまうようだ。

Pressバッジでも、シアター・リュミエールで上映されるワールドプレミア上映はinvitation(招待状)を手に入れる必要がある。現地では、デヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス』やミヒャエル・ハネケの『ハッピーエンド』は大変人気だった。チケットを求める列が会場前に殺到していた。専用チケットは枚数が限られており、映画祭関係者がより親しい人に配布していく。だから、正直コネがものを言う。私は、運よく気の良いセレブからパルムドールを獲得した『ザ・スクエア 思いやりの聖域』のチケットを貰うことができたが、そんな幸運がない限り、ワールドプレミアを観るのはなかなか難しい。

また、Pressバッジにも序列がある。青バッジ→オレンジバッジ→黄色バッジと、色によって入場に順番がつけられているのだ。よって、人気作の場合はプレス試写でも黄色バッジではなかなか観られなかったりする。あとから来た青色バッジが先に入場していき、黄色バッジは上映を諦める、なんてことも多々ある。

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Image: SCQIC

世界中から映画人が集う王都

私が見る限り、ヴェネツィア/ベルリンの参加者はほとんどが白人だったが、カンヌ国際映画祭にはアジアや南米系の人も多数見かけられた。やはり「映画祭の王様」だけあって、世界各国の映画人が集うのだ。

カンヌは、映画の上映と同じぐらい夜のパーティーが醍醐味だ。アジア人交流パーティーでは、香港映画祭の日本部門プログラミング・ディレクターから「香港では山田洋次がかなりの人気を博している」という話を聞いたり、韓国の若手監督から「韓国でジブリを通らない若者はいない」と力強く説かれたりもした。また、北欧映画人のパーティーでは、Googleのエンジニアからフリーライターに転職した女性から、現在の邦画について厳しいご意見をいただいたりもした。日本にいると見えてこない世界の映画事情世界における日本映画の受容のされ方がつぶさに伝わってきて、本当に楽しかった。

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Image: SCQIC

ベルリン国際映画祭

さて、三大映画祭を制覇すべく、去る2月にベルリン国際映画祭に行った。ベルリンは、参加へのハードルは低いものの、さまざまな理由を考慮するとかなり上級者向けの映画祭だ。

まず、内容もゴリゴリの社会派だったり、哲学的な作品が多い

そしてベルリンはとにかく寒い。2018年は寒波の影響もあり、会期中最も寒い日は氷点下15度まで下がった。ここまで寒いと、会場と会場の間の移動だけでも相当体力が奪われてしまう。またドイツの道路は非常に複雑で、運が悪いとタクシーやUBERが来るまで10分以上待たねばならない。

さらに、メイン会場とサブ会場の間がかなり離れている。多くの映画を観るためには電車での移動が必要なので上映スケジュールはかなり緻密に組まないと、多くの映画を観逃してしまう。

駄目押しに、カンヌやヴェネツィアと比べ、周辺に美味しい飲食店が少ない

ただし、ベルリンは他のふたつの映画祭に比べて、市中の映画館がフルに活用されており、まさに映画祭が街に根づいていた。会期中はベルリンのどこに行っても映画の話題がひっきりなしに飛び交っており、映画祭のスケールの大きさを感じた。

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Image: Denis Makarenko/Shutterstock.com

会場

メイン会場のPalast/CinemaX/Cinestarは、Potzdam platz駅から歩いて5分ほどのところにあり、非常にアクセスしやすい。問題は、メイン会場以外のサブ会場だ。ヴェネツィア/カンヌと違って、最も離れたZoo PalaistやKino Arsenalになると、電車で6〜7駅ほど移動しなければならない。この会場の遠さを考慮して、会期中どんなふうに予定を組んでいくかが映画ファンの腕の見せ所だ。

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Image: SCQIC

参加方法

ベルリン国際映画祭は、ヴェネツィアと同様に一般の方も参加することができる。参加の仕方は3つだ。

現地で前売り券を購入:メイン会場に隣接している建物、Arkadenで前売りチケットを購入することができる。コンペティション部門の映画のみ上映日の4日前からの販売となり、それ以外は上映日の3日前から販売。初日にArkadenを訪れてもすべての日程のチケットを買えるわけではないので注意が必要

公式HPから予約:予約にあたっては、HPでのアカウントの登録が必要。予約の際にprint@homeを選択すると、登録したメールアドレスにチケットが送付されるので、こちらを映画館へ持参する。 またticket collectionsを選ぶとPotdamer platzにあるチケット受け取り窓口で受け取る形になる。受け取りには予約コードと身分証明が必要

当日券:これが最後の手段。こちらもArkaden or 当該作品の上映館で買えるが、ほとんどの作品は前売で売り切れてしまっている

値段は、どのチケットでも4ユーロから13ユーロ(約500〜1,500円)と、非常に安価。また、カンヌとは異なりPressもチケットを取る必要がある(Press向けの試写では不要)。毎朝、Pressルームに当日分と翌日分の上映作品リストが配布されるので、チケット受付で観たい作品のチケットを受け取る。Pressルームでは、批評家に人気の映画情報誌Screenが無料配布されるのだが、こちらの星取表やレビューで高評価を得ている作品は、チケット配布開始後すぐに売り切れてしまう。

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Image: SCQIC

骨太な上級者向け映画に挑戦したいなら

最初にも書いた通り、ベルリンは上級者向けの映画祭である。しかしながら、カンヌの『ある視点』やヴェネツィアの『オリゾンティ』でもなかなか取りあげられないような、エッジの利いた作品がコンペで平然と上映されることが特徴だ。私の場合は、ノルウェーのティーンエイジャー69人が犠牲になったテロ事件を、事件と同じく90分間、ワンカットで描いた『U - July 22』に衝撃を受けた。みずからの審美眼とセンスが問われるベルリン映画祭は、映画ファンにとって非常に参加しがいのある映画祭といえよう。

映画祭に参加する前に

三大映画祭は、本当にどれも素晴らしい。日常の映画体験とはまったく異なる高揚感が得られる。以前、取材をしたときに是枝裕和監督が口にしていた「映画という100年続いてきた豊かな川の流れがあって、自分もその一滴であるという自覚を持てる」という感覚がピタリと当てはまった。(※1)

だから、映画好きなら是非三大映画祭に参加していただきたい。

最後に、映画祭参加にあたって、3つ覚えていただきたいことを記載する。

・特にヴェネツィアとカンヌは、映画祭が近づくにつれ周辺のホテルの値段がハネあがるので、ご注意を(開催1ヵ月前でも、会場から3km以内のホテルは、最安値が1泊3万円前後と非常に高くなってしまう)。

・非英語圏の映画には英語字幕がつくが、ヴェネツィアとベルリンでは英語圏の作品に英語字幕がつかないので、リスニングが不安な方は事前に練習した方が良い(私は結構聞き取れず苦労した)。

・どの映画祭も、すべての会場で同時に映画が上映されるので、何を観に行くか/何を観に行かないかの取捨選択と時間管理が必要。

本記事を閲読していただいた皆様が映画祭を楽しまれることを願う。

Image: SCQIC, Denis Makarenko/Shutterstock.com

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