Aphex Twinの映像作家WEIRDCOREに聞く。『攻殻機動隊』が与えた影響と、いま注目する映像表現
ARTS & SCIENCEAphex Twin、Radiohead、Charli xcx、Arca、宇多田ヒカルといった世界的アーティストのライブビジュアルやMVを手がける一方で、自身は素顔を一切公開せず、匿名で活動していることでも知られるビジュアルアーティスト、WEIRDCORE。そんな彼が、2026年3月7日に東京・TOKYO NODEで開催された『攻殻機動隊展』関連のライブイベント「DEEP DIVE」にVJとして出演のために来日した。
同イベントでWEIRDCOREは、THE SPELLBOUND × BOOM BOOM SATELLITESのライブにてビジュアルを担当。攻殻機動隊のアイコニックな「義体の指が分裂した超高速タイピング」の映像などを交えながら、アグレッシブなバンドのパフォーマンスをビジュアル面で支えた。

また『攻殻機動隊展』に出品中の、テクノロジーと日本の伝統工芸を融合するアートプロジェクト「TechnoByobu」新シリーズ「HAC module」では、アニメ『攻殻機動隊 S.A.C.』を象徴するキャラクター「笑い男」を再解釈した作品「模倣 Moho」を制作。同作は日本の攻殻機動隊ファンの間で大きな注目を集めている。
そこで今回、FUZEはイベントのために来日したWEIRDCOREにインタビュー。謎多き匿名ビジュアルアーティストの正体に迫るべく、攻殻機動隊の思い出から、現在注目している最新テクノロジーを用いた映像表現やお気に入りの日本人クリエイター、そして、Aphex Twinとの協働関係まで、たっぷりと話を聞いてきた。
──映画『攻殻機動隊』について、「90年代の自分にとって特別な作品だった。週末のクラブパーティーの後、友達とVHSで何度も観てたのを覚えている」とコメントされていましたが、当時のWEIRDCOREさんにとって、この作品はどんな存在でしたか?
WEIRDCORE:まず90年代半ばのイギリスっていう時代背景を考えてほしいんだよね。あの頃のイギリスから見ると、攻殻機動隊はめちゃくちゃ未来的に見えたんだ。サイバーパンクで、SFで、周りの風景と全然違う。東京に住んでたら、もうすでに街自体がサイバーっぽいから、そこまで未来的には映らなかったかもしれないけどね。
でもイギリスやヨーロッパから見ると、すごく未来的で、視覚的にもたまらなくいいものだった。ただ、クラブから帰ってきて真剣に観てたわけじゃない。「これ深いなぁ」なんて言いながら観るんじゃなくて、音楽をかけながらバックグラウンドで流してた感じだね。
──その上でクラブカルチャーとの接点というのは?
WEIRDCORE:攻殻機動隊のサイバーパンク的な美学が、当時のトランスシーン全体に影響を与えていたと思うんだ。僕自身はトランスを聴いてたわけじゃないんだけど、ロンドンのカムデンにCyberdogっていうファッションショップがあって、とても人気があったんだ。そこはクラブの暗闇で光るTシャツとか、未来的なレイヴウェアを売ってる店なんだけど、そういうスタイルと攻殻機動隊の美学って、当時完全にセットだったんだよね。

何度も繰り返し観てたのは、単純に当時はストリーミングなんてなくて、観られるものが限られてたからっていうのもある。今みたいにNetflixで何でも選べる時代じゃなかったから、気に入ったものを何度も何度も観てたんだよ。若い世代にはピンとこないかもしれないけど、あの時代にはそういう選択肢の制約があったんだ。

──攻殻機動隊展で展示されている「HAC module」のひとつとして、『攻殻機動隊 S.A.C.』を象徴するキャラクター「笑い男」を再解釈した作品「模倣 Moho」を制作されました。数ある攻殻機動隊のモチーフの中から「笑い男」を選んだ理由を教えてください。
WEIRDCORE:デザインをしたのは僕なんだけど、モチーフを選んだのはこれを企画した会社のユーマなんだ。僕とユーマはものすごく付き合いが長くて、特に社長の弘石さんとは彼がロンドンに住んでいた2000年頃からの知り合いなんだよね。そういう付き合いがあって実現したものなんだけど、そもそも僕自身が普段顔を隠して活動しているだろ?そういうアノニマス的な部分が笑い男に通じるところがあると考えたそうなんだ。

──なるほど。そういった匿名性つながりでの依頼だったのですね。
WEIRDCORE:そう。だから、今回はモジュールの中で匿名性を表現しようとしたんだ。作品の中にはたくさんの「普通の人たち」がいて、笑い男は誰にでもなれるっていうことを見せたかった。サラリーマンだったり、女子高生だったり、家にいるおばあちゃんだったり。あと色もオリジナルの青一色から変えて、それぞれ違う色にした。見た目として美しくしたかったのもあるけど、全員が違うからこそ、誰も特別じゃなくなるっていうか。全員が違うからこそ、そこに溶け込むんだよね。
ただ、自分自身のアノニマス性とどうリンクするかっていうのは、あんまり考えたことはないんだよね。正直、フィーリングで作品を作るタイプだから、そこまで理屈で考えてやってるわけじゃないんだ。
──今回の「攻殻機動隊展」を実際にご覧になったと思いますが、どう思いましたか?
WEIRDCORE:うん、かなりクールだったよ。特に良かったのは、空山基さんの作品だね。ずっと彼のファンで、本もたくさん持っているんだけど、まさかあそこに展示されてるとは思わなかったから驚いたよ。あれはほんとに素晴らしかった。

──DEEP DIVEでのVJセットを振り返ってみていかがでしたか?
WEIRDCORE:全体的にはよかったよ。全部がちゃんと繋がっていて、会場全体が攻殻機動隊の世界から出てきたみたいだったよ。ただ、いつもとはかなり違うやり方というか、普段は既成のクリップを使うことがないんだよね。いつもは画像を素材にしたり、Aphex Twinの時みたいにステージのカメラからのライブ映像を素材として使ったりとか、画像をカットアウトしてパーティクルで再構成するとか、そういうことをやっているんだ。
でも、今回はイベントの趣旨に合わせて、攻殻機動隊の素材を使った。いつもなら映像をアルファチャンネル(背景を透過した映像素材)で透過させて自由に使うんだけど、今回はそれが難しかった。本当は漫画の素材を使いたかったんだけどね。
──その理由を教えてもらえますか?
WEIRDCORE:漫画って静止画だから、切り取って使いやすいんだよね。ダイナミックなポーズがあるし、抽象的なコンテクストの中に放り込んでもしっくりくる。でもアニメの映像だと構図的に使いづらいことが多くて。攻殻機動隊のアニメも大好きなんだけど、全編通して観ても、簡単にカットアウトできる素材がそんなに多くなかったんだ。
でも結果的に、制約があったからこそ新しいテクニックを見つけられた。映像の中から抽象的なカットアウトを作る方法を編み出して、それが結構うまくいった。特に良かったのは、HAC moduleの要素を使って「Kick It Out」のパートを再構成した時だね。あそこはかなり自分のいつものスタイルに近かった。結局、追い込まれたからこそ新しい解決策が見つかったわけで、このテクニックは今後のライブでも使っていくと思う。

あと面白いことを思い出したんだけど、実は僕がVJを始めた99年か2000年くらいは映画の素材を使ってたんだよね。すぐに飽きて自分のスタイルに移行したんだけど、その時に使ってた素材のひとつが、まさに攻殻機動隊の「義体の指が枝分かれして、複数のキーボードを同時に高速タイピングする」やつだったんだ。まさに原点回帰ってやつだよね。
──攻殻機動隊が問い続けてきた「自分とは何か」、「誰が作ったかわからないものに魂は宿るか」というテーマは、AIが生成するイメージが氾濫する2026年の今、リアルな問いとして浮上しています。映像を作る立場として、こういった状況にどんな問題意識をお持ちですか?
WEIRDCORE:最初の質問でも話したけど、95年の映画が当時ほどSFに見えなくなってきてるっていうのが、まさにそれを物語ってるよね。正直、そういう哲学的な問いとして深く考えたことはあんまりないんだ。ただ、僕は単純に、AIと共に生きることに適応していくしかないと思っているよ。恐れるんじゃなくて、ツールとして使っていく。
常にAIをクリエイティブにどう使えるかを考えているし、そもそもAIって、今まで不可能だったことへの扉を開いてくれるんだよね。新しいテクノロジー、新しいテクニックを生み出してくれる。AIの計算速度がものすごく速いから、それだけで可能性がどんどん広がっていくんだ。
──近年AR、VR、XRなどの新しいメディア表現が確立されつつありますが、ビジュアルアーティストとして、現在どういったテクノロジーや表現に注目していますか?
WEIRDCORE:ひとつは数週間前に体験した360度LEDスクリーンだね。ゴーグルをかけるんだけど、IMAXの3Dメガネみたいな感じで、それがフルサラウンドになってる。VRヘッドセットをつけてるみたいなんだけど、実際にそこにいるっていう感覚で、隣に人がいてもわかる。あれはすごかった。
もうひとつ、今すごくワクワクしてるのが「4D Gaussian Splatting」っていう技術。3Dモデルとは違って、小さな「スプラット」と呼ばれる点の集合体でシーンを再構成するんだけど、写真を数枚撮るだけで、反射や透過まで含めた3D空間を完全に再現できるんだ。見た目がとにかくリアルで、説明しづらいんだけど。そのアニメーション版、要はスプラットが動くバージョンを作っているスタジオもある。
4Dで撮影するのはまだ結構大変なんだけど、今AIで画像や映像を生成できるようになってきているのがポイントなんだ。AIで生成された4D Gaussian Splattingが、次の大きなブレイクスルーになると思っているし、今まさにそこをリサーチしてるところなんだ。
──もう実際に取り組まれてたりしますか?
WEIRDCORE:まさに今、試している最中なんだ。早く家に帰って本格的に取り組みたいぐらいだよ。これとさっきの360度のゴーグルを組み合わせたら、最高のものができると思うんだ。
──以前のインタビューで、宇川直宏さんやアニメ『キルラキル』の今石洋之監督から影響を受けてると語られていましたが、現在注目されている日本のクリエイターや映像作品はありますか?
WEIRDCORE:宇川さんはもちろんだけど、池田亮司さんもずっと好きなんだ。数週間前にロンドンのバービカンで彼の新しい作品を観てきたばかりだよ。弦楽器のための音楽、パーカッションのための音楽、合唱のための音楽っていうふうに構成されていて、今までと全然違うアプローチだった。常に自分を進化させ続けてるところがいいよね。
それと今石さんは、最近だとNetflixアニメの『サイバーパンク:エッジランナーズ』をやってるよね。大好きだよ。あとは東京にあるCG・VFX制作会社「Khaki」の水野正毅さん。AIを使って撮影した映像を変容させる技術がすごく面白いんだ。ゼロからAIで生成するんじゃなくて、実際に撮影した映像素材にAIでディストーションをかけたり、シーンのライティングを変えたりしている。AIの使い方としてはそれがベストだと思っているし、彼のスタジオはそれを実践しているんだ。すごくいいよ。
──WEIRDCOREさんとAphex Twinさんとは、長年のライブ映像制作などを通じてとても深い協働関係にあると思います。その仕事がWEIRDCOREさん自身の表現スタイルをどのように形成してきたか教えてください。
WEIRDCORE:Aphex Twinとの仕事でよかったのは、完全に好き勝手ってわけじゃないんだけど、彼が好きなものを僕自身が把握してからは、プロジェクトごとに細かくすり合わせる必要がなくなったところかな。新しいプロジェクトの話だけして、あとは「任せたよ」って感じ。お互いのセンスがすごく似てるから、それが成り立つ。僕も彼が好きなものと嫌いなものがわかっているし。
他のアーティストだと、もう首根っこ掴まれるみたいに「いや、こうしてくれ」って細かくコントロールしてくる人が結構いるんだけど、Aphex Twinは全くそうじゃない。肩に力が入りすぎていないというか、そのおかげでかなり仕事がやりやすいんだ。
──今回の滞在中にMVの撮影があるとお聞きしています。
WEIRDCORE:16歳になったばかりのheykazmaという若い日本のアーティストの作品を撮影するよ。昨日テストセッションをしたんだけど、今回の撮影では、フルスペクトラム・フォトグラフィーっていう技法を使おうと思ってるんだ。フィルターを変えると、赤外線や紫外線の領域が見えるようになったり、通常のRGBと赤外線をミックスできたりする。それだけで全く違う色の世界になるんだよね。それをいろんなパターンで撮って、編集でコンポジットして、さらに別の色味のフィルターをかけていく。そうすると最終的にはすごく奇妙な色彩が何層にも重なった映像になるんだ。
──どのくらい前からこの技法を試してるんですか?
WEIRDCORE:1年半くらいかな。手に入るフィルターは片っ端から集めてきて実験してたんだけど、今回のプロジェクトで初めて本格的に使うことになる。ようやく実を結ぶ感じだね。
あと、来月Arcaのライブでもこのフィルターを使う予定なんだ。ただ、今回のMV撮影は撮って編集するっていう工程だけど、Arcaの方はライブだから、同じカメラとフィルターを使うにしてもアプローチは全然違ってくるかな。いずれにしろ、面白いものになると思うよ。

■HAC module 「模倣 Moho」商品案内
商品名:Ghost in the Shell STAND ALONE COMPLEX 模倣 Moho
商品番号:HAC-03-GIS-MH
アーティスト:Paul Nicholson / WEIRDCORE
発売日:2026年1月30日
サイズ:縦:300mm × 横:300mm
重量:約395g
材質:錫箔(平押し)紙
価格:132,000円(税込)

■HAC module 「模倣 Moho EX」商品案内
商品名:Ghost in the Shell STAND ALONE COMPLEX EX 模倣 Moho Extra
商品番号:HAC-03-GIS-MHーEX、HAC-03-GIS-MHーEX2
アーティスト:Paul Nicholson / WEIRDCORE
発売日:2026年1月30日
サイズ:縦 400mm × 横 1200mm
重量:約1.4kg
材質:
・通常版(EX):錫箔(大箔散らし)
・特別仕様(EX2 写真組み込み版):錫箔(平押し)
真贋判定:MiWAKERU®
販売数量:
・通常版(EX):Edition 8
・特別仕様(EX2 写真組み込み版):Edition 8(受注制作)
※EX2特別仕様版は、ご購入者ご本人の写真を、モザイクを構成する要素の一部として組み込むことが可能です。受注制作となり、希少性の高いオリジナル作品としてお届けします。
■TechnoByobu及び他のHAC module作品についてはこちらから
TechnoByobu公式WEBサイト
https://technobyobu.jp/
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