The xx(ザ・エックス・エックス)は幼馴染のロミー・マドリー・クロフト(Romy Madley Croft, ボーカル、ギター)、オリヴァー・シム(Oliver Sim, ボーカル、ベース)、そしてジェイミー・スミス(Jamie Smith, キーボード、プログラミング)の3人で構成されるバンド。
2009年のデビューアルバム『xx』の独特の世界観に衝撃を受けた人も多いだろう。当時、Pitchforkでレビューを書いたライターのアンドリュー・ガリッグ(Andrew Gaerig)は、そのときの驚きをこう書き残している。
it's nearly incomprehensible to think that a group so fresh-faced produced xx.
「こんなにフレッシュなメンバーが『xx』を生み出したなんて、理解不能だ」
オススメ記事:The xx: xx Album Review|Andrew Gaerig - Pitchfork
その後2012年に、2作目のアルバム『Coexist』をリリース。翌年のフジロックではホワイトステージのトリをつとめた。日本のThe xxファンの間では伝説的に語られるステージだ。
オススメ記事:Live Reviews:The XX - @FUJI ROCK FESTIVAL '13 (White Stage)|与田太郎 - ele-king
2015年、メンバーのジェイミーはJamie xx名義でソロアルバム『In Colour』を発表(ロミーとオリヴァーもヴォーカルなどで参加している)。各音楽メディアやThe xxファンから絶賛され、その年の音楽シーンに強く印象を残した作品となった。
彼らの音楽性は、圧倒的なライブからも見て取ることが出来る。日本での公演も来日の度に規模と人気が拡大し続け、今年のフジロックではGREEN STAGEに登場している。
そして、The xxはバンドとしては4年ぶりの3作目となるアルバム『I See You』の発表(国内リリース:2017年1月13日)を控えた2016年12月に来日し、一夜限りのライブを東京で行なった。そのライブ後に、ジェイミーにインタビューする機会をいただけた。
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The xxの「旅」
『I See You』収録の新曲『Lips』から始まったライブ。ファースト『xx』とセカンド『coexist』からの曲を織り交ぜながら、途中には『Shelter』とJamie xxの『Gosh』のマッシュアップも披露した(ライブ中でもっとも大きな歓声で迎えられた1曲だった)。
「観客の歓声は聞こえてましたか?」と訊くと、ジェイミーは「聞こえてたよ、とってもナイスだった。すごかったよね」とシャイな笑顔を見せてくれた。そして、2016年の日本の観客は"WILDEST"だったと表現する。
Jamie「The xxの曲にダンシーなテイストが増えているのも理由かもしれない。以前の日本の観客は、すごく静かに聞いてくれていた印象があった。僕たちをリスペクトしてくれていたというか。それも嬉しかったんだけど、やっぱりノッてくれるのもいいね」
『Shelter』と『Gosh』のマッシュアップについて尋ねると、
Jamie「新作が出る前だったから、僕のアルバムの曲とあわせてみた。新曲ばっかりやるタイミングでもないと思ったから」
とのこと。
ライブの選曲や曲順がストーリーを紡ぎ、その世界観を表現する照明が会場を包み込む。緊張感すら漂いそうなほど綿密に構成された空気を、曲中に突然ダンスし始めたオリヴァーとロミ―がおちゃめに崩す場面もあった(SILLYのオリヴァーへのインタビューによれば、「ちょっと恥ずかしくなって」踊ってみたそうだ。詳しくはリンク先のインタビューを参照してほしい)。ステージでは、さまざまなThe xxの要素が交錯して、ひとつのショーを作り上げていた。
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Jamie「ストーリーというか、ジャーニー(旅)だね。全体を通して旅を楽しんでもらえるようなものにしたかった。盛り上がる曲があったり、落ち着いた曲があったり。みんなでつくったんだ。照明を担当してくれているのは、僕らがライブをやり始めたころからいっしょだった人だから、曲も全部知っている。リハからすべて照明も絡めて仕上げてきたショーなんだ」
ジェイミー・スミスにとっての「言葉」とは、文字そのものではない
The xxの曲はエモーショナルな歌詞も特徴的だ。そのほとんどに、ジェイミーはこれまで関わってこなかったと言っている。しかし今回の『I See You』に関しては、心境に変化があったそうだ。
Jamie「(歌詞に関しては)今までコメントすらしてこなかったけど、今回のアルバムでは少し言いたいことが出てきたっていう感じかな。デモをもらって音を作るっていう手順は変わらない。ただそのデモの段階で歌詞がのっていたとすれば、その歌詞を意識して音を作った」
「いちばん言葉に影響された曲はどれか」と聞くとすぐに、『Brave for you』だと教えてくれた。
Jamie「『Brave for you』の歌詞は悲しくて、切なくて、琴線に触れるよね。そういうメランコリックなものに、あえて違った雰囲気の音を乗せてもいいかなとか、音を(歌詞と)逆方向に引っ張ってみたりもした」
ただジェイミーにとっての「言葉」とは、文字そのものではないらしい。
Jamie「言葉そのものではなくて、ボーカルの持っている響きにヒントを得て音作りをしていると思う。(ロミーやオリヴァーの)声がメロディにのっているからこそ響いてきた。今回のアルバムは3人で集まって作ったんだ。最初のアルバムみたいにね。だから、共同作業だったんだ。どの部分が誰のインスピレーションで、誰がどんなアイデアを持ってきたとか、そんな風に分けて考えられないくらい」
アルバムの裏にはこんな風に書かれている。
あなたが私を見るように、自分自身を見ることができたらと思う私の目を通して、あなたがあなた自身のことを見られたらいいのにあなたが口にしなかったことすべてが跳ね返ってくる見られているとは思っていないだろうけど、見ているよときどき、こう言いたくなるんだ。大丈夫、わかってる、見えてるよ
「3人で、独立性を保った中で音楽をやるのは尊いことなんだと気がついた」
アルバムのタイトルになっている『I See You』とは、まさに誰かといるからこそ出てくる言葉だ(ひとりでは「あなたを見る」ことはできない)。ソロプロジェクトJamie xxでも大きな評価と成功を得たジェイミーは、今 「3人で音楽を作る」ことで、何を感じたのだろう。
Jamie「アルバムのタイトルはまさにそういう意味(=3人で音楽を作る)だね。3人で、独立性を保った中で音楽をやるのは尊いことなんだと気がついた。ステージ上でも、1人のときとはぜんぜん違う感覚がある。3人でいることの純粋な喜び、楽しみを改めて感じたんだ」
「孤独」から生まれた充足感
多くの人が刺激を求め続ける時代だと思う。アーティストはアルバムに毎回異なるゲストを迎え、起業家たちが集うミートアップやハッカソンはそこら中であふれるほど開催されている。ソーシャルメディアではフェイクニュースがあっという間に拡散される。みんなが常に「あっと驚くような」「信じられないほどスゴい」刺激的な未知のもの、人、インスピレーションと出会いたがっている。
インターネットとスマートフォンが普及して、プラットフォーム化するメディアとソーシャルネットワークからの情報中心の生活は、もはや驚きではなくなった。そんな2017年には、新しい情報を見て、知らない人とつながって「刺激」を得ることは、ずっと簡単になり、その行動自体が新しい日常となった。むしろ何もしないことのほうが難しいだろうとすら思える。追いつけないくらい早いスピードで変わっていく今の時代に、まったく影響されないでいる選択をするには勇気が必要だ。
もちろん、それらテクノロジーのパワーを自分の活動に上手く取り込んだ人は数多く存在する。しかし、わかりやすさゆえに巨大なインパクトを持つ数字、リツイート数や再生回数、フォロワー数、得票数、売上枚数に取り憑かれ(あるいは、取り憑かれることを忌避するあまり、必要以上に自身の承認欲求を卑下し)、「自分は何が好きだったのか?」を見失う人もまた多い。
そんな世界の中で少しずつ語られる、飾りなく率直なジェイミーの言葉を聞いていると、彼のバンドと音楽に対する考え方が見えるような気がする。
ステージ演出は、デビューからずっと自分たちを見てきた人に。ソロプロジェクトのゲストボーカルには、いつものメンバーのロミーとオリヴァーを呼んだ。The Guardianのインタビューの中で、彼がプロデューサーとして著名R&Bアーティストたちとの制作を振り返った発言はこうだ。
"It's like being a producer for hire. You meet a lot of people, consider everybody's opinion. I've learned a lot." A pause. What have you learned? "Mostly that I like working on my own.
「雇われたプロデューサーってこんな感じなんだろうと思った。たくさんの人に会って、みんなの意見を考慮して。すごくよくわかったよ......ぼくは1人で作業するのほうが好きだって」
オススメ記事:Jamie xx: 'What have I learned? That I like working on my own'|Alexis Petridis - The Guardian
根っからの"音楽好き"ジェイミーは、音楽にある種の「独立性」を保っている。だから、社会で起きている問題や遠い宇宙のことがインスピレーションをもたらすことはほとんどないそうだ。反対に、音楽を作るきっかけになるのは「他人の音楽」だけだと言う。
Jamie「何かを聴いていて好きだと感じる時がある。その感覚に触発されて作りたくなっていく」
何かに夢中になっている人、特にものを作る人は、他の人に比べて孤独な時間が多い。ときに、社会から完全に離れてしまうこともある。ジェイミー(彼自身がそうだと言っているわけではない)のような「The xx世代」のアーティストたちは、それを隠さないし、問題だとも思っていないようだ。彼ひいてはThe xxの感じた「独立性を保った中で音楽をやるのは尊い」という言葉に、それが現れている。閉空間に1人でいると、否が応でも自身の内面と創作物に向き合うことになる。同じように3人でいると、3人分の内面を見ることになる。そうやって反響しあって生まれたのが「誰がどんなアイデアを持ってきたとか、そんな風に分けて考えられない」アルバム『I See You』なのだろう。
『I See You』は決して「意図的なコンセプト転換」があったりとか、「予期しなかったサプライズ」が仕込まれていた作品ではない。メンバー3人がそれぞれの4年を生きて、変化して、集まった結果だ。だからThe xxの音楽は、限りなくノンフィクションに感じられる。
The xx
『I See You』
2017年1月13日リリース
国内盤[ボーナス・トラック2曲追加収録、歌詞対訳、解説書封入] ¥2,590(税抜)
Track listing:
01. Dangerous
02. Say Something Loving
03. Lips
04. A Violent Noise
05. Performance
06. Replica
07. Brave For You
08. On Hold
09. I Dare You
10. Test Me
11. Naive *Bonus Track
12. Seasons Run *Bonus Track
Label : Young Turks
Stores: Beatink、Amazon、Tower Records、HMV、iTunes Store
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