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7 #海外ドラマは嘘をつかない

R&Bやヒップホップとクロスオーバーしながら進化中。「たくましい黒人女性たち」が活躍する女性ドラマの今

ARTS & SCIENCE
ライター渡辺 志保
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「#MeToo」や「#TimesUp」といったムーブメントを例にあげるまでもなく、今の社会において女性のエンパワメントは極めて重要なテーマだ。もちろん優れた表現者たちはそこに意識的であり、近年のドラマには女性が女性のリアリティを描き、何かしらの気づきや勇気を与えるような作品が増えている。とりわけ、アフリカ系アメリカ人の作家/女優たちによる傑作が次々と生まれているのは特筆すべきことだろう。では、それは具体的にどのような作品であり、どこに魅力があるのか? 90年代のヒップホップ/R&Bが提示した「強く自立した女性像」に触発されて以来、ブラック・カルチャーに傾倒/精通している渡辺志保に、ドラマと音楽、文化や現代社会との関わりをまじえながら論じてもらった。


90年代R&Bが提示した「強い女性像」の衝撃

筆者がアメリカのR&Bやヒップホップ・ミュージック、総じてブラック・ミュージックと称される音楽に夢中になり始めたのは、中学生になりたての頃だ。当時、深夜番組で流れてきたブランディー&モニカが歌う「The Boy Is Mine」のMVに釘付けになったのを鮮明に覚えている。

Brandy & Monica - The Boy Is Mine
Video: Max Summer/YouTube

「彼にふさわしいのは私、あなたは過去のオンナなのよ」

「ハッキリさせましょうよ、諦めるのはあなたよ」

そこには、二人の女の子が一人の男性を取り合い、時には相手を罵りながら愛憎劇を繰り広げる様子が歌われており、私はこれまで聴いてきたJ-POP的なラブ・ソングとのギャップにびっくりしたのだ。

何て強い女の子がいるんだろう!

これまでのステレオティピカルな<女の子像>が砕け散り、その後、リル・キムやミッシー・エリオットらアメリカの女性ラッパーの曲に触れ、世の中にはこんな風に自分の意見を主張する女性がいるんだ、と目から鱗が落ちるような感覚で、夢中で彼女たちの楽曲を聴き漁った。

Lil' Kim feat. Lil Cease - Crush On You
Video: YouTube
Missy Elliott - Get Ur Freak On
Video: Missy Elliott/YouTube

強くインディペンデントな女性たちのドラマ――その現代性を象徴する『インセキュア』

それ以来、ヒップホップ・ミュージックの虜になったわけであるが、筆者が今、それと同じくらい夢中になっているのが、強くインディペンデントな女性たちが主役を張るアメリカのドラマの数々だ。

まず、もっとも現代的な作品として挙げられるのはイッサ・レイが監督総指揮と主演を務めるドラマ『インセキュア』だろう。

『インセキュア』
Video: Series Trailer MP/YouTube

イッサは1985年にアメリカ・ロサンジェルスに生まれ、2011年よりYoutubeで黒人女性の<日常におけるモヤっとするシーン>を鋭く描写した動画シリーズ「Awkward Black Girl」を投稿し始めて、人気を得ることになる。徐々に人気が出始めた動画は、やがて50万ドル以上の寄付金を集め、ファレル・ウィリアムズも注目し、彼のYoutubeチャンネルで公開されるまでになった。

『Awkward Black Girl』
Video: Issa Rae Presents/YouTube

そんなイッサがテレビ局のHBOに売り込んだのが『インセキュア』である。

舞台はアメリカ西海岸。主役はアラサー世代のイッサ、そして親友のモリー。イッサはNPO団体に勤務しつつ、イマイチ仕事のやりがいを感じられずにもいる。そして、同居人は長年の付き合いになるボーイフレンドのローレンス。かたやモリーは弁護士事務所でバリバリ働きつつも特定の恋人はおらず、いくつものマッチングAppを掛け持ちしながら自分にぴったりの恋人を探す日々だ。

普段の生活に、いきなり昔の恋人が現れたら? いくつもの男性を天秤にかけて、うやむやな男性関係が続いてしまったら? 職場に自分よりも若くて有能な女性がやって来たら? 過去のセフレとうっかり過ちを犯してしまったら? そして、恋人がその事実を知ってしまったら…? どのエピソードも、彼女たちのSNSを追っているかのようにリアルな魅力が詰まっている。

イッサたちのアイデンティティの根底にあるのは、黒人女性としてのプライドと強さ、葛藤をはらんだリアリズムだが、ここで彼女が描く情景や感情は、肌の色や住環境のボーダーを越えて深く女性の共感を呼び、エンパワメントを強く感じるものになっている。

加えて、『インセキュア』の素晴らしい点はほかに、彼女らの気持ちを代弁するかのように現代の女性R&B、ヒップホップ・アーティストの楽曲が非常に効果的に使用されている点だ。カーディ・Bにレイケリ47、カマイヤー、ジャズミン・サリヴァン、SZAなどなど、今、最もホットな女性アーティストの歌声が随所随所でよきエッセンスとなり、ドラマを盛り上げているのもたまらない点である。

Video: SZAVEVO/YouTube

女性へのエンパワメントを感じさせるドラマが次々と台頭

ほかにも、女性へのエンパワメントを感じるドラマ作品は多い。黒人女優として初めてエミー賞・ゴールデングローブ賞・トニー賞の三冠に輝き、今や名女優の仲間入りを果たしたヴァイオラ・デイヴィスの鋭くも滋味溢れる演技が見どころの『殺人を無罪にする方法』や、刑務所帰り、かつ3人の子を持つ母親であり、子供らと結託して元夫との抗争に奮闘するクッキー役が見事にハマっているタラジ・P・ヘンソンの姿が強烈な『エンパイア 成功の代償』といった作品も、もちろん欠かせないマスターピース。

『殺人を無罪にする方法』
Video: ディズニー・スタジオ公式/YouTube
『エンパイア 成功の代償』
Video: VICE Japan/YouTube

『オレンジ・イズ・ザ・ニュー・ブラック』を観れば、人種や国籍、宗教を超えてそれぞれの人生を生きるキャラクターたちに心を震わされるはずだ。

『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』
Video: Netflix Japan/YouTube

「#TimesUp」を先導したトレイシー・エリス・ロスと、現代の黒人性を問う『Black-ish』

今年のゴールデン・グローブ賞では、「男性たちに屈するのはもうたくさん」として、女性たちが「#TimesUp」のハッシュタグをつけて立ちあがった様子が注目された。ナタリー・ポートマンや、ブリー・ラーソンらと並んでその中心人物となったのが、トレイシー・エリス・ロスだ。

彼女は式典の前日から、女優たちが集い「#TimesUp」に関してディスカッションをする様子などをSNSで伝えてきた。彼女が主演を務め、話題になったドラマに『Black-ish』がある。

『Black-ish』
Video: IGN/YouTube

この作品は、親子三代が同居する黒人家庭を舞台に、「現代のアメリカ社会における黒人性とは何か?」を問う、ある種異色なTVドラマだ。トレイシーが3人の子供を抱えながら医師として働く母親役を演じているこのドラマは、今や人気ドラマのひとつとして広く視聴され、現在、シーズン4に突入した。

2017年のゴールデン・グローブ賞ではトレイシーがこの『Black-ish』でコメディ/ミュージカル部門の最優秀女優賞を受賞。黒人女優としては35年ぶりの快挙となった。『Black-ish』の最新シーズンではトレイシー自らがメガホンを取る予定だといわれており、さらに注目を集めている。

「#TimesUp」ムーブメントのもう一人の中心人物=テッサ・トンプソン

同じく「#TimesUp」ムーブメントの中心人物になっていたのが、各所で注目を集める新鋭女優、テッサ・トンプソン。ライアン・クーグラー監督の映画『クリード/チャンプを継ぐ男』のヒロイン役で彼女のことを知った方も多いのではないだろうか。

『クリード/チャンプを継ぐ男』
Video: シネマトゥデイ/YouTube

テッサ・トンプソンの冴えた演技が評価されたのが、次世代のスパイク・リーともいわれるジャスティン・シミエンのメガホンによる『親愛なる白人様』(映画版)だ。ここでは自分のアイデンティティのルーツと向かい合いながら、ハッキリと意見を述べる勇敢な(だがどこか脆い)女子学生役を堂々と演じて見せた。

『親愛なる白人様』
Video: Dear White People/YouTube

最近では、ジャネル・モネイの新作MV「Make Me Feel」にもフィーチャーされ、ジャネルとの好相性を見せつけている。

Janelle Monáe – Make Me Feel
Video: Janelle Monáe/YouTube

舞台の裏側で活躍する黒人女性たちにも注目!

注目すべきは画面に映る女優だけではない。前述した「#TimesUp」の運動に関しては、黒人女性の脚本家・プロデューサーとして『グレイズ・アナトミー恋の解剖学』や『スキャンダル 託された秘密』、『殺人を無罪にする方法』などを手がけ、広く活躍するションダ・ライムズの存在を忘れてはならないし、『インセキュア』や『マスター・オブ・ゼロ』などに参加しているメリーナ・マツオウカスや、アカデミー賞にもノミネートされたNetflixドキュメンタリー作品『13th』、そして公民権運動時代のキング牧師を描いた映画『グローリー/明日への行進』に、最新ディズニー映画『リンクル・イン・タイム』、ラッパーであるジェイ・Zの最新MV「Family Feud」などを手がけるディレクター、エイヴァ・デューヴァネイら、制作の立場で活躍する黒人女性たちも大きな存在感を放っている。

女性たちが社会を変えるのは「今」

「物事を変えていくのに、100年も200年も待てやしません」。キング牧師の言葉を引用したこの台詞は、これまでにエミー賞やゴールデングローブ賞の授賞式な度で数々の名スピーチを残してきたヴァイオラ・デイヴィスが、今年の1月に行なわれたウィメンズ・マーチで唱えた言葉だ。胸を張り、みずからのパワーで社会を鼓舞していく女優たちによるドラマ作品の数々、この機会にぜひとも触れてみてほしい。

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Image: Kathy Hutchins/Shutterstock.com
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