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2 #政治化するエンタメ

ドレイクからビヨンセ、カニエ・ウェスト、チャイルディッシュ・ガンビーノ:セルフイメージが最大の商品になった2010年代に勝者は存在するのか?

DIGITAL CULTURE
コントリビューター辰巳JUNK
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音楽がSNSと連動するバイラル時代

Video: Rae Sremmurd/YouTube
Rae Sremmurd - Black Beatles ft. Gucci Mane

あらたな日、あらたな金が作られる
──Rae Sremmurd『Black Beatles ft. Gucci Mane』より

音楽がSNSと連動するバイラル時代――その決め手はブラック・ビートルズの来襲だった。2016年初頭、レイ・シュリマー『Black Beatles』がBillboard首位を獲得したその次に、ミーゴス『Bad and Boujee』が王座に輝いた。マネキン・チャレンジとミームな歌詞をSNSで流行らせた両作は「バイラル・ヒット」と呼ばれた。

無課金感覚で音楽が聴かれるストリーミング時代、重要なのは目立つことだ。そのためアートワークの重要度も増したとされるし、アーティストによるセルフイメージ戦略への注目度も向上した。重要な戦場は勿論ソーシャルメディア。レーベルや旧来メディアの影響力が低下し、セレブリティのパワーが増したとされる今、何が起きているのか。ドレイクにビヨンセ、カニエ・ウエストにSoundCloudラッパー、そして「影の王者」の戦術を探ってみよう。

1. ミームなポップ・ジャイアント、ドレイクの場合

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A first look at the iPhone X Plus. Lol. @apple?@silasveta operating at goat level.

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ドレイクほど真にインターネットを具現化する人間はほとんどいない。この男は歩くミームだ。彼への嘲笑、または称賛は、つねにフィードのトップを飾っている。ドレイクこそがインターネットだ
──The Vergeより

文字どおりInstagramフィードでラップするこのチャート・キングこそ、ソーシャル時代を代表するポップ・アイコンだ。元々、ドレイクは「バカにされるラッパー」だった。ゆえに「インターネットで最も成功したラッパー」となった。彼は、自分自身を「間抜けで笑えるミーム」にしたのだ。

役者時代の車椅子からドナルド・トランプも真似た『Hotline Bling』の奇妙なダンスまで……ウェブ世界にドレイクの面白ミームは無数に存在する。『Views』リリース時にはミーム・ジェネレーターを提供したし、ミーク・ミルとのビーフではミーム攻撃に出た。

Video: Word On Road/YouTube
Drake - Charged Up/Back To Back [OVO Fest 2015]

馬鹿にされようと、ドレイクはインターネットをよく理解していた。オバマ元大統領に自分の顔をはめ込んだ画像さえ投稿している。

Crack Magazineは、ドレイクのミーム戦略を「トップダウン・マーケティングの対極」と評した。ドレイクにとって、消費者は受動的な存在ではない。彼の存在や商品をシェアするプロモーターだ。このモダンなシェアリング・エコノミーは、彼の音楽でも共通している。

Video: Drake/YouTube
Drake - In My Feelings

なんとしてもドレイクと写真を撮らなきゃ、私のInstagram、クソ弱いから…
──Drake『In My Feelings』より

これがドレイク自身の楽曲のセリフとは驚きだが、本作は10週間もBillboardのNo.1を独走した。そしてこの言葉は真実だ。2010年代後半にチャート・キングとなった彼のヒットチューンは、ファン参加型ミームの側面を持つ。

『In My Feelings』では、ウィル・スミスも参加したダンス・チャレンジが大当たり。そして、この曲にはSNS考察合戦を換気させるゴシップもある。ドレイクお得意の曖昧な元カノトークだ。

「キキ、俺のこと好き?」──名指しされる、元恋人と思わしきキキとは誰なのか。キーシャ・シャンテ? キャナ・バーバー? それともキム・カーダシアン? ドレイクの新作がリリースされると、ソーシャルメディアは彼の話題であふれかえる。

『Scorpion』発売時には、複数メディアがこぞって「Instagramキャプションに使えるリリック集」を紹介した。Buzzfeedにいたってはその数101個だ。『In My Feelings』のセリフどおり「クソ弱い私のInstagramを素敵にしてくれるポップ・アイコン」、それがドレイクなのである。一方でこんなことも言われる。「短命な流行を絶え間なく分配する男」。彼を世界最高のミームだと思えば、2つとも正解かもしれない。

【ダンス・チャレンジを狙え】
2018年現在、ソーシャルメディアにおけるダンス・チャレンジ・ブームは金のなる木だ。音楽企業はこぞってブームを仕掛けようとしている。今の時代の大企業は、人々がSpotifyやInstagramで聞いた曲や時間、場所を追跡できる。このビッグデータを用い、TikTokでバイラル戦略を仕込んでいくビジネス・モデルがNewYorkerで紹介されている

2. メディアも屈服させる女王像、ビヨンセの場合

Video: Beyoncé/YouTube
The Carters - Apeshit

群衆が我を失うのを見たことある?
──The Carters『Apeshit』より

21世紀の成功のアイコンであるビヨンセは、セルフイメージ戦略でも大成している。彼女は音楽シーンに君臨する威厳ある女王だ。

その鍵は「沈黙」にある。Instagramの更新数は多いが、全体的にコメントは少ない。綴られるのはほとんどファンへの感謝だ。政治的ステートメントは主に作品やパフォーマンスで主張する。この情報過多時代、ヘッドラインを飾りながらレアリティと権威を保つ方法。それは沈黙であり、パワーの誇示であり、パワーの実証だ(2016年に『Lemonade』は高い評価を得たし、2018年を代表するパフォーマンスといえばBeychellaだろう)。

W Magazineは、ビヨンセのセルフイメージを「メディアにすら忠誠を誓わせる女王」と記した。それを実現するかのように、2018年、ビヨンセがVogue9月号イシューの「フルコントロール権」を獲得したと報じられた。なかでも注目を集めたのは、彼女が同誌126年の歴史で初の黒人カバー撮影者を起用したという話。大手メディアにも報道されたこの情報によって、人々は革命家ビヨンセを喝采し、既得権益Vogueを糾弾した。ビヨンセは、まさに「メディアに忠誠を誓わせる女王」像を手に入れたのである。

しかしながら、メディア側もクイーンのイメージを利用しているかもしれない。9月号リリース直後、Vogue編集長アナ・ウィンターはBofに「撮影者の起用は我々が決めた」「ビヨンセに編集全権は渡していない」と明かした。渦中のフォトグラファー、タイラー・ミッチェルも同様の否定に出た。要するに、大御所メディアまで巻き込まれたデマだったわけだ。

この話のポイントは、Vogue側が発売後まで噂を放置したことだ。なぜなのか考えてみよう。「Vogueが歴史上、初めて黒人を起用」「ビヨンセがVogueに史上初の黒人を起用させた」、このどちらがネットを騒がせ、記念すべき9月号のエンゲージメントが稼げる?

そしてもうひとつ。このゲームの勝者は誰だ?

【ジャーナリズムの弱体化とInstagram音楽帝国】
ビヨンセの件は「ジャーナリズム弱体化」の象徴とされた。近年、彼女含むトップスターがメディアで記者によるインタビューを受けなくなっている。代替トレンドはセレブ自身による記事編集と製作、そしてInstagramだ。レコード企業は新作プロモーションの際、Instagramの音楽戦略チームと作戦を練るようになった。このチームは、チャンス・ザ・ラッパーやレディー・ガガらスターたちとも直接会談している。2015年Nielsenの調査によると、Instagramユーザーの音楽への出費はアメリカ国民平均より42%も高い

3. リアルなクソ野郎、カニエ・ウェストとニッキー・ミナージュの場合

俺をアホと罵るお前らは 俺のこと話してばっかりだ
──Kanye West『I Thought About Killing You』より

「リアルなAsshole」といえばカニエ・ウェストだ。TVアワードでテイラー・スウィフトのスピーチに乱入した彼は、ソーシャルメディアでもお騒がせ者であり続けている。2018年には「奴隷制度は黒人の選択に思える」と発言し、その補足ツイート含め大炎上を起こした。

DIGIDAYは、彼のソーシャルメディア術の魅力を「本気」としている。セレブリティたちが政治的言動含めセルフイメージを管理するようになったSNS時代、カニエは「セレブの普通」を破壊する。良くも悪くも人々はカニエの「リアルさ」にリアクションしていくのだ。

一方、ウィル・アイ・アムは「奴隷制」発言がマーケティングでなければ良い、と漏らした。彼の炎上発言の投下は、関与した作品のリリース期間周辺でなされていた。もしカニエが意識的ならば、彼の術は「リアルさ」に加え「適切な投下期間設定」かもしれない。彼はお騒がせセレブであると同時に、ビーフやファッションで成功を収めたビジネスマンでもある。

【ビーフ経済学】
ビーフは儲かる。2007年、Rolling Stoneの表紙まで飾ったカニエ・ウェストと50Centの売上対決は、どちらも初週60万枚を捌く大成功をおさめた。現在もビーフはマーケティングとして有力だ。The Economistの調査によると、2018年、プシャTはドレイクとのビーフでGoogle検索数を50倍も増やした。ただし失敗例もある。2015年、同じくドレイクと戦ったミーク・ミルのセールス・ユニットは45%減った。プシャのように投下スピードが速くなかったし、ドレイクのようにラインが巧妙ではなかった。

Video: Lil pump/YouTube
Kanye West & Lil Pump ft. Adele Givens - "I Love It"

「奴隷制は選択」発言によってカニエのキャリアは終焉……世間どころか妻のキム・カーダシアンまでそう思って泣いたが、カニエ帝国は終わらなかった。彼の新曲『I Love It』はSpotify首位に輝いた。

Video: Nicki Minaj/YouTube
Nicki Minaj - Barbie Dreams

知ってるでしょ、私は金にしか興味ない
──Nicki Minaj『Barbie Dreams』より

一方、同じく新作リリース期に不評を買ったニッキー・ミナージュは異なる見方をされた。6ix9ine擁護とトラヴィス・スコット糾弾で話題を作った彼女は、ツアー延期も発表することとなった。理由は不明だが、i-Dは「チケットが高騰している今、悪評は興行不振に繋がる」と示唆している。ちなみに、ニッキーはビーフもお粗末だった。彼女はCDにマーチャンをつけるトラヴィスを糾弾したが、当の自分も同様の商法を行っていた。

【アーティストのファッション・ビジネスと特典商法は何故増えた?】
ニッキーの矛盾したビーフが示すように、米音楽界でファッション・ビジネスやCD特典商法が盛んになっている。理由は、ストリーミング普及によって音源の儲けが減ったため。音楽界のスターはツアー、マーチャンダイス、スポンサーシップで冨を築く時代だ。特にツアーは大きい。Forbesによると、2018年、ストリーミングとスポンサーシップで稼ぐドレイクと年71回コンサートをするフー・ファイターズの推定年収はほぼ同額だった

4. アメリカン・ヴァンダル・バイラル、SoundCloudラッパーたちの場合

Video: Lil pump/YouTube
Lil Pump - ESSKEETIT

金を稼ぐ 限界なんて無い Xをキメる Xをキメる
──Lil Pump『Esskeetit』より

派手な髪色、ドラッグ、顔面タトゥー、暴力騒動……2018年にはTOP10入りも珍しくなくなったSoundCloud出身ラッパー達こそ「バイラル」を象徴する存在だ。彼らのキャリアを支える媒体はYoutubeやInstagram。危険地帯への突入や万引きといったチャレンジ動画で注目を集めつづけ、楽曲再生へつなげる。敵対や乱闘、ドラッグ文化も盛んで、世間からの問題視はついて回る。

そんなアメリカン・ヴァンダルたちだが、若者に尊敬される「ストリート・ヒーロー」の側面も持っている。リル・パンプはTOP3ヒット『Gucci Gang』の収益1万ドルを子どもたちの為に寄附した。XXXテンタシオンと6ix9ineも貧しい地域への支援に積極的なことで有名だ。6ix9ineは、シカゴで食糧を配りながらその街のラッパーをディスり、ビーフとバイラルに繋げていったが。

【アルバム尺のトレンドは?】
SoundCloudラッパーたちの作品は短尺が多い。2018年、XXXテンタシオン『?』は18曲37分、6ix9ine『DAY69』は12曲30分。カニエ・ウェストも7曲24分の新作『Ye』を出した。一方、ドレイクとミーゴスの新アルバムは100分を超えていた。長と短、トレンドはどっちだ? 答えは、両方? Pitchforkの調査によると、人気ヒップホップ・アルバムに限れば、10年代よりも00年代の方が平均時間が長い。10年代の平均トラック数は、2015年から17年にかけて増加、18年には収録時間とともに減少している。ストリーミング時代、アルバムの長さは多様化したし、ヒットの最適解は模索され続けている

10代も多いSoundCloudラッパーたちは、バイラルそのもののような存在だ。迷惑行為や乱闘、ドラッグ、顔面タトゥー、インモラル性、そしてチャリティ活動まで、すべてがバイラルになる。バイラルの背景に居るのは、彼らの破天荒な行動を求めて盛り上がる観衆たちだ。

2018年、XXXテンタシオンは銃撃により20歳で逝去した。彼の死後リリースされた『SAD!』のMVはまるで自己予言だった。

Video: xxxtentacion/YouTube
XXXTENTACION - SAD!

棺に入ったテンタシオンと、もう一人のテンタシオンが激しく殴り合う。周囲の人々は、この異様な乱闘を観戦して盛り上がる。自身が身を置くバイラル競争を俯瞰するかのようなこのNo.1ヒットは、こんな疑問から始まる。

俺は誰なんだ?
──XXXTENTACION『SAD!』 より

5. 陰の王者?、チャイルディッシュ・ガンビーノの場合

Video: Childish Gambino/YouTube
Childish Gambino - This Is America

お前はただのバーコードだ
──Childish Gambino『This Is America』より

チャイルディッシュ・ガンビーノは、SNSをほとんど更新しないし、ゴシップ・メディアも騒がせない。にも関わらず、2018年、彼はソーシャルメディアの話題を寡占した。明らかに社会的だが本懐がわからない『This Is America』のMVは瞬く間にバイラルとなり、多くの考察を呼び、圧倒的な動画再生数でNo.1ヒットとなった。ソーシャルメディアに登場しないまま場を征した彼こそが影の勝者だ。

続いてガンビーノは、人気ヒップホップ/R&Bアーティストを一気に描くアニメーションMV『Feels Like Summer』をドロップした。

Video: Donald Glover/YouTube
Childish Gambino - Feels Like Summer

2018年のヒップホップ/R&Bバイラルは、この映像でさらうことができる。ドレイクは間抜けなミームのように汗を流し、ビヨンセは唯一無二として凛とし、カニエは泣き、ニッキーは怒り、Soundcloudラッパーたちは遊び回る。ガンビーノは「夏のように暑い」と歌うが、映像に出てくるアーティストたちのバイラル合戦、それを拡散するフィードこそ、季節問わず真夏のようだ。

ストリーミングやソーシャルメディアは「アーティストに自由をもたらす神器」として喝采された。その側面は確かに実在するだろう。しかし同時に、アーティストたちのバイラル合戦が引き起こす問題も深刻化している。そもそも、音楽ストリーミングが表現者にもたらす利潤は少ない。

願ってたんだ この世界が変わるのを
だけど世界はなにも変わってないようだ
わかってるよ 俺は願う 俺たちが変わることを
──Childish Gambino『Feels Like Summer』より

彼や彼女たち、そして我々はどこに向かうのか。多分、誰にもわからない。

【ストリーミング時代の音楽ファン】
Pitchforkは『Spotify時代の責任ある音楽ファンのありかた』を提言している。Spotifyでは、99%以上の再生が上位10%の人気曲に集中している。意識的にお金を払う先を選ぼう。物販を買おう。そして、音楽のコンテキストをシェアしよう。オンラインでもオフラインでも

Image: Kevin Winter/Getty Images for iHeartMedia
Source: The Verge, Crack Magazine, Buzzfeed, NewYorker, W Magazine, Bof, FADER, Nielsen, DIGIDAY, The Economist, Pitchfork(1, 2), Instagram(1, 2, 3, 4), YouTube(1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8

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