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3 #海外ドラマは嘘をつかない

『ゲーム・オブ・スローンズ』が描く「独りよがりな正義や愛の衝突」と「罪や後悔から生まれる本物の絆」の世界 対談:☆Taku Takahashi(m-flo/block.fm)×田中宗一郎

DIGITAL CULTURE
コントリビューター小林 祥晴
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『ゲーム・オブ・スローンズ』という作品を説明するのに、まずは本特集の別項に丸屋九兵衛氏が寄せてくれている本作品に対する言葉を引用してみよう。「世界的な社会現象と化し、『流行っていないのは日本と北朝鮮だけ』とも言われた」。「アメリカでは『共和党支持者は見ない』といわれるのもうなずける」。だからこそ、むしろ「バラ戦争時代の中世ヨーロッパをモチーフにしたダーク・ファンタジー」という言葉だけで眉をひそめてしまうような読者にこそ真っ先にお薦めしたい作品がこの『ゲーム・オブ・スローンズ』だ。

Video: シネマトゥデイ/YouTube

全米で1600万人以上が釘づけとなっているHBO製作の『ゲーム・オブ・スローンズ』は、間違いなく2010年代を代表するドラマのひとつだ。本作は、ジョージ・R・R・マーティンのベストセラー小説『氷と炎の歌』を映像化したもの。中世ヨーロッパを思わせる架空の世界を舞台に、7つの王家が壮絶な覇権争いを繰り広げるスペクタクル巨編である。

2011年春の放送開始以来、世界中で空前の大ヒットを巻き起こしており、2017年に始まったシーズン7の初回は1610万人が視聴するというHBO史上最高の数字を叩き出した。くわえて、「テレビ界のアカデミー賞」と称されるエミー賞のドラマ部門では、2年連続で12部門(!)を受賞。アメリカの映画データベース・サイト〈IMDb〉の人気ドラマ・ランキングでは、6年連続で首位の座を守り続けている。今や『ゲーム・オブ・スローンズ』は、完全に社会現象だと言っていい。

とはいえ、多くの登場人物が入り乱れる群像劇で、中世を舞台にしたダーク・ファンタジーと紹介されると、ややとっつきにくいと感じる人も少なくないだろう。にもかかわらず、なぜ『ゲーム・オブ・スローンズ』は全世界でこれほど白熱することになったのか?

その謎に迫るべく、大の海外ドラマ通であり、「ファンタジーは苦手だけど、『ゲーム・オブ・スローンズ』だけは別」と語るm-floの☆Taku Takahashiと、2013年からこのドラマに魅了され続けてきた〈The Sign Magazine〉の田中宗一郎(二匹の飼い猫の片方の名前は『ゲーム・オブ・スローンズ』のキャラクター名前=アリアだという)に同作の魅力を訊いた。

なお、☆Taku takahashiと田中宗一郎の対話は3つのパートにわかれている。全体の入り口となる総論編、50年以上に渡って熱狂的な支持を集めるSFの金字塔『スター・トレック』編も公開されているので、ぜひあわせて読んでいただきたい。


『ゲーム・オブ・スローンズ』はゾンビとドラゴンと魔法のドラマではない!

田中:Takuさんも僕も『ゲーム・オブ・スローンズ』の大ファンなわけなんですが、この作品は日本ではまだ全然知られていないといってもいいですよね。

Taku:世界で一番観られている作品であり、世界で一番ダウンロードされている作品なんですけどね。アメリカのPornHubって知ってます? 海賊版のエロ動画サイトなんですけど、そのPornHubのPV数が『ゲーム・オブ・スローンズ』の放送時間にガッと落ちたっていう。

田中:(笑)ビートルズが1965年の『エド・サリバン・ショー』に出演した時間帯に全米の犯罪率が一気にゼロに近くなった、みたいな話ですよね。

Taku:そういう現象が起こるくらいの人気なんですよ(笑)。日本ではもちろんTSUTAYAとかにも置いてあるんですが、さみしーくシーズン1~4くらいまであって、あんまり貸し出し中になっていないんですよね。

田中:そうなんですよー。Jay-Zのロック・ネーションが契約してるグライムスって女性アーティストと数年前に話したときも「日本では誰も『ゲーム・オブ・スローンズ』を知らない」って伝えたら本当にびっくりしてて。理由をきかれて困っちゃったんですけど。ただ、Takuさんは「SFは好きだけれど、ファンタジーや中世の世界観にはあまり惹かれない」とうかがっています。にもかかわらず、『ゲーム・オブ・スローンズ』は例外的にハマっているわけですよね?

Taku:そうなんです。

田中:僕も近しい友人に『ゲーム・オブ・スローンズ』を勧めると、「中世の世界観だとか、ドラゴンが出てくるっていうだけで観る気がしない」と言われることがあるんです。そういう人たちに対して、「このポイントで見ると面白いんだよ」というのを説明するとしたら、どうしますか?

Taku:そもそも本質的に、『ゲーム・オブ・スローンズ』はゾンビとドラゴンと魔法の映画じゃないと思うんですよ。

田中:というと?

Taku:「腐敗した世の中で、どうやってキャラクターたちが暮らしていくか?」っていうのがポイントなんです。たとえば、その世界のしきたりに従ってのしあがる人もいれば、そこに真っ向勝負を挑む人もいる。いっぽうで、「ここは変えたいんだけど、今攻めるとこじゃないから、ちょっと様子を見ておこう」っていう人もいたりとか。その巧みな人間描写が、我々の社会の在り方をすごく反映しているんですよね。

田中:まさに。

Taku:会社で上司に「こういうことやれ」っていわれて、納得がいかないけど仕方なくやるとか、それに対して異議を唱えるとか、異議唱えて左遷されちゃったりとか。そういうのとすごくよく似ているんですよ。僕はそこが好きなんです。

いくつもの「正義」が不必要にぶつかり合う「現代社会」のその先を模索するドラマ

田中:おっしゃる通りですね。僕自身も今の社会のアナロジーとして『ゲーム・オブ・スローンズ』を面白いと思ってるんですよ。ロシアの小説家のソローキンが言ってたんですけど、今の複雑怪奇な世の中を描くには、リアリズムだけではどうにもならないところがあって。だからこそ、今の時代を描くのに『ゲーム・オブ・スローンズ』はあえてファンタジーを使っている。

Taku:人間ドラマなんですよね。「自分自身の立場や社会がこの先どうなっていくのか? その鍵を握る重要な場面で人間がどういう選択をするのか?」っていう問いかけがあって。その選択が必ずしも美しい選択ではないときもある。道徳的に正しいキャラクターですら、「こういう選択をしちゃうんだ?」っていう局面がある。そういうところに共感が持てるんですよね。自分と照らし合わせることができるんです。

田中:『ゲーム・オブ・スローンズ』って、一言で言うと、いろんな立場の正義がグロテスクにぶつかり合い、無益に血を流すドラマなわけじゃないですか。それがゆえに、虐げられてきた者さえ、虐げる者をさらに虐げてしまったり。僕の場合、「すべてのキャラクターが必ず間違いを犯してしまう、ひとりも正しい行いを貫くことが出来ない、でも、それぞれが懸命に生きようとしてる」——その描写に完全にやれらてしまった口なんです。「それってまさに今の時代のことじゃないか!」って。で、そもそもTakuさんはトレッキーですよね?

Taku:ええ。

田中:僕もそうなんですが、『スター・トレック』はその時々の社会を描くのにあえてサイエンス・フィクションを使ってる作品だと思うんですね。そういったところでは『ゲーム・オブ・スローンズ』とも共通点があると思うんです。だからこそ、Takuさんがトレッキーで、なおかつ『ゲーム・オブ・スローンズ』にも惹かれたんじゃないかな?と思うんですけど。

Taku:実際、僕に『ゲーム・オブ・スローンズ』を勧めてきたのは、みんなトレッキーなんですよ。日本のトレッキーに丸屋九兵衛さんっていう方がいるじゃないですか。その丸屋九兵衛さんから、「Taku、『ゲーム・オブ・スローンズ』は見たほうがいいよ」って言われて。「見るから見るから」って言いながら見てなかったんですけど。

田中:(笑)。

Taku:で、アメリカ行ったとき、アメリカのトレッキーと話してて盛りあがってたら、「ところで、Taku、『ゲーム・オブ・スローンズ』は見たのか?」って(笑)。

田中:(笑)世界中のトレッキーからの布教活動ですね。

Taku:「またきたよ」と思って、とりあえず「シーズン1は買ってあって、見ようと思ってるんだけど、まだ見てないんだよね」って話を終わらせようとしたんですよ。そしたら彼が「グッド・ラック」って言ってきて。「なんでグッド・ラックって言われるんだろう?」って気になって。それで速攻で見てみたんですよね。

田中:最初はどんな印象を持たれましたか?

Taku:びっくりしましたね。最初は取っつきにくいところもあったんですよ。「キャラが多いし、誰を追っかければいいのかわからないな」と思いながらも、とりあえず2話まで見たんです。「展開が遅いなあ~、しかもイギリスなまりがきつくてわかりづらいなー」とか思いながら。で、3話を見て、4話を見て、「4話も見たし、5話を見るかー」と思ってたら、「いや、6話も見ないと、7話も見ないと!」となっていって、気がついたら一気見しちゃっていたっていう感じなんですよ。

田中:なるほど(笑)。

Taku:田中さんはどんな感じでした?

田中:僕の場合は、基本的にサイエンス・フィクションもファンタジーも好きなんですよ。で、あまり期待しないまま観てみたら、「あ、これはファンタジーを使って今の時代を描いているんだ」っていうのがわかってきて。それって、自分が『スター・トレック』を30年間、40年間に渡ってずっと観てきたのと同じメカニズムなんですね。で、どハマりって感じでしたね。

Taku:ドラゴンとか魔法とか、シーズン後半に向けて結構盛りあがってきてるから、それも重要なファクターになってきてるじゃないですか。でも、どちらかと言うと、その時代の政治とか、人種差別問題とか、女性蔑視とか、そういったモチーフがいろいろと描かれているんですよね。

名もなき庶民やマイノリティ——すべての「ひとり」が主人公だ、という世界観

田中:おっしゃる通りですね。でも同時に「それに気づかなくても楽しめる」っていう塩梅もすごく好きなんですよ。押しつけがましくないっていうか。純粋にエンターテインメントとしても楽しめるけど、よく観てみると、「あ、そういうメッセージがあるんだ」と気づくことができるっていう。

Taku:『ゲーム・オブ・スローンズ』って、主演男優賞、主演女優賞に今まで一回もノミネートされてないじゃないですか。助演のみなんですよね。つまり、主人公が誰だかわからない、っていうところも面白くて。自分が好きなキャラクターを追っていくっていうような見方もできるんですよね。

田中:で、気がつくと、大方のキャラクターのことが好きになってるという(笑)。

Taku:ただ、キャラが多いので、最初は誰を追えばいいかわからなくて挫折する人もいると思うんですよ。でもHBOの『ゲーム・オブ・スローンズ』の公式サイトでは、「このエピソードは誰を追えばいいよ」っていう攻略的なものも書いてあるんです。そういうのも参考にするといいと思いますね。田中さんは、どのキャラクターが好きですか?

田中:う~ん、難しいですね。

Taku:これ、みんなに難しいって言われる質問なんですよ。

田中:でもやっぱりピーター・ディンクレイジが演じているティリオンは魅力的ですね。彼が『ローリング・ストーン』の表紙を飾ったときは、自分のことのように嬉しかったです。

Taku:僕もティリオン大好きなんですよ。ティリオンは、僕らと同じ視点を持っているように感じますね。シーズン6の、あのデナーリスが〈王の手〉の紋章を渡したとき、号泣ですよ。

田中:わかります(笑)。世間だけでなく肉親からも蔑まれていた彼が、初めて赤の他人から信頼の証しを受け取るシーンですよね。

Taku:今まで親からも、お姉ちゃんからも、ずっと馬鹿にされ続けていて。で、しかも五王との戦いで活躍したのに評価されず。体張ってみんなを守ろうとしてきたのに、挙げ句の果てに国に裏切られてしまう。「やっとここまできたね」っていうところで、追放されてしまうんですよね。もう号泣ですよ。今思い出すだけで泣いちゃいます。

田中:僕が好きなキャラクターは基本的に立場がマイノリティの人たちなんですよ。かつ、子供時代に愛されなかった人たちですね。仮の主人公であるジョン・スノウにしろ、私生児という設定じゃないですか。はっきりと「ここが自分の帰る場所だ」と言い切れるコミュニティや居場所がなくて、それを探しているキャラクターのひとり。

Taku:そうですね。

田中:ティリオンは王家の出身ではあるけど、この世界では差別の対象になっている小人症であるがゆえに、なおかつ生まれてくるときに母親が亡くなったがゆえに、家族からも疎まれてしまう。そういう居場所のなかった人たちが「どうやって自分の場所を見つけていくのか?」っていう物語でもあると思うんですよね。

Taku:ティリオンが第一話で言ったセリフがすごい印象的で。「マイノリティである自分の中の鎧をつけろ」っていう。あと第二話で、「お前は剣を削ってるけど、俺は本を読むのが剣を磨くのと一緒なんだ」っていう。すごく印象的なシーンですね。

『スター・ウォーズ』が追いつけない「ポリティカル・コレクトネスの先の問題意識」

田中:『ゲーム・オブ・スローンズ』の世界には、いろんなキャラクターがいて、基本的に誰もが欠点を抱えている。だから、正義を100%体言する主人公も、圧倒的なヴィランと呼べる存在もいない。そこが最高なんですけど、それってまさに現実の世界だと思うんですよ。

Taku:この作品の何がすごいって、ヴィラン――要は、敵役が視聴者から嫌われていないことですよね。普通は主人公がピンチになったときに、「あぁ、どうしよう?」ってなるけど、『ゲーム・オブ・スローンズ』は敵役がピンチになったときも「どうしよう、どうしよう?」ってなっちゃってる自分がいる(笑)。それがマジックだったりしますよね。

田中:そうなんですよ。たとえば『スター・ウォーズ』サーガというのは、すごく乱暴にいうと、主人公たちが正しくて、間違ってる人たちがいる、っていう描き方だと思うんです。なおかつ、特権階級や王宮の人たちが中心に描かれていて、庶民というか、何でもない普通の人たちのことはあまり描かれていない。そこを『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』と最新作では何とか是正しようとしてるとは思うんですけど。

Taku:そうですね。

田中:でも、『ゲーム・オブ・スローンズ』は王家や特権階級だけじゃなくて、被差別民にしろ、ありとあらゆる立場の人々を描いていて、誰もが間違いを犯すし、誰もが間違ってる部分もあるんだっていうことを執拗に描いている。しかも、作品として、誰が一番正しいっていう正解を出さないんですね。判断はすべて受け手に委ねられている。それが何よりも刺激的だと思います。

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Image: 七咲友梨
Source: PornHub, YouTube, Wikipedia

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