2018年、海外ドラマは私たちに何をもたらすのだろう?
今回の特集で取りあげた海外ドラマの数々は、日本のものや過去の作品と比べて「相対的に」素晴らしいのではない。両者は「ドラマ」という言葉を共有しているだけで、視聴方法やコンテクストはまったくの別物である。言いかえれば、私たちにとって「海外ドラマ」は今も昔も常に新しい未確認生物だ。
2010年代後半ごろから、フィクションの殻をかぶせつつ現実社会の出来事をストーリー化したドラマが顕著な人気を得ていることが、今回の特集ではおわかりいただけたと思う。それらの作品には「政治」や「人種」、「性」など、さまざまな文脈とメッセージが込められている。
たとえば、スパイク・リー監督のNetflixオリジナルドラマ『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』は、1985年に自身が作った映画のリメイクだ。このドラマでは、2017年にしか描けなかった「ドナルド・トランプ大統領時代」に絡んだシーンがいくつも見られる。また、長年の人気を誇る『セックス・アンド・ザ・シティ』はメインキャラクターが全員白人だったが、2016年に放送された女性ドラマ『インセキュア』は、イッサ・レイによってリアリティを追求した黒人女性が描かれ、新しいスタイルでの「SATC」ともいえる。
これらの作品は紛れもなく、現在の世界を映しだす鏡である。昨今の海外ドラマを見ることは、いま世界で起きていることを知ることと同じだ。
カルチャーについて考えるとき、「国内:国外」「過去:現在」など二項対立的な視点が用いられがちだ。だが、私たちに必要なのは、世界を俯瞰的に知ることである。だが、意見を対立させる前に、アメリカをはじめとするさまざまな国の「未知」なるアウトプットを知らなければならない。そのために私たちはドラマを見るのだ。そして、文脈をインプットすると同時にアップデートさせていくのである。今回の特集記事があらゆる異文化同士の差異に対して、壁を作っていくのか、それとも橋を架ける発起点となるのかは、あなたの行動次第だ。
#0
「ドラマ」が社会現象になる世界、ならない日本。FUZE 3月特集は「海外ドラマ」
Yohei Kogami
#1
新作映画を見て「この役者、あまり見たことがないけれど、随分と大きな役をやってるな」と思ったら、それは十中八九、テレビシリーズの現在を追っかけている視聴者にとってはお馴染みの「あの役者」だ
2010年代の海外ドラマ革命はいかにして起こったか? あなたにしか救えない「置き去りにされた日本」
登場する作品:『ツイン・ピークス』『ブレイキング・バッド』『ハウス・オブ・カード』『ストレンジャー・シングス』
宇野維正
#2
——僕が言いたいのは、「最近、何か面白いものないかな、刺激が欲しいな」と思ってるんだったら、目の前にいっぱい刺激はあるよ、っていうことなんです。Netflixもあるし、Huluもある。ひょっとしたらAmazon Primeの会員になってません?(☆Taku Takahashi)
2010年代の海外ドラマ革命、それは「クリエイターと産業、ユーザー」の三者が手を取り合った「20年の歴史」の結晶である 対談:☆Taku Takahashi(m-flo/block.fm)×田中宗一郎
登場する作品:『Mr.ロボット』『ゲーム・オブ・スローンズ』『ストレンジャー・シングス』
小林祥晴
#3
正義を100%体言する主人公も、圧倒的なヴィランと呼べる存在もいない。そこが最高なんですけど、それってまさに現実の世界だと思うんですよ(田中宗一郎)
『ゲーム・オブ・スローンズ』が描く「独りよがりな正義や愛の衝突」と「罪や後悔から生まれる本物の絆」の世界 対談:☆Taku Takahashi(m-flo/block.fm)×田中宗一郎
登場する作品:『ゲーム・オブ・スローンズ』『スター・トレック』
小林祥晴
#4
3人というのは一番難しい関係だと思うんですけど、逆にそのトライアングルがハーモニーを奏でたときの素晴らしさは可能性に満ちている。Takuさんはそれをm-floで実感することがあるんですね?(田中宗一郎)
『スター・トレック』50年の歴史、それは公民権運動からベトナム戦争の時代に芽生えた「理想と夢」の轍 対談:☆Taku Takahashi(m-flo/block.fm)×田中宗一郎
登場する作品:『スター・トレック』『オービル』
小林祥晴
#5
もはや、こうしたブロックバスター作品であっても、視聴者としては、シネコンのスクリーンではなく、定額制の枠内で、TVやPCモニターからスマホ画面に至るスモール・スクリーンで観れば、十分なのだろうか
それにしても、これは「映画」なのだろうか?——配信ドラマ隆盛の時代に揺れる、20世紀を代表するアートフォームの特異点=「映画」という定義
登場する作品:『ツイン・ピークス The Return』『ブライト』『Mosaic』
小林雅明
#6
『セックス・アンド・ザ・シティ』の開始から20年、女性ドラマはずいぶん遠くへ来たけれど、日本ではまだまだこのあたりがメジャーを張っている。それがいいことかどうかはわかりませんが、『セックス・アンド・ザ・シティ』がなければいまの活況はなかった。まずはそのあたりを振り返ってみましょう
もはや『セックス・アンド・ザ・シティ』の時代とはまったく違う! 女性ドラマの20年と今
『セックス・アンド・ザ・シティ』『GIRLS』『インセキュア』
萩原麻理
#7
『インセキュア』の素晴らしい点はほかに、彼女らの気持ちを代弁するかのように現代の女性R&B、ヒップホップ・アーティストの楽曲が非常に効果的に使用されている点だ。カーディ・Bにレイケリ47、カマイヤー、ジャズミン・サリヴァン、SZAなどなど、今、最もホットな女性アーティストの歌声が随所随所でよきエッセンスとなり、ドラマを盛り上げているのもたまらない
R&Bやヒップホップとクロスオーバーしながら進化中。「たくましい黒人女性たち」が活躍する女性ドラマの今
登場する作品:『インセキュア』『殺人を無罪にする方法』『エンパイア 成功の代償』
渡辺 志保
#8
“私はハーヴェイ・ワインスタインに挿入を求められ、5回中3回も断った”
おそらくほとんどの人は、上の発言を見た時、「#MeToo」運動の発端となったハリウッドの映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインについて書かれたメディアの記事からの引用だと思うだろう
「偏見の恐怖」から社会を救うコメディドラマこそ現代のジャーナリズム
登場する作品:『30Rock』『Great News』『マスター・オブ・ゼロ』
向晴香
#9
内容を説明するなら「セレブ貴族が悪霊を退治しながら道楽しつづけるシュールな物語」。ジェイデン・スミスやジュード・ロウなど、豪華キャストが出演するわりにメッセージ性も感じられない。そんな謎のアニメは、いっぽうで「トランプ時代らしい社会性」とも評されている。一体『ネオ・ヨキオ』とは何なのか……
現代社会批評としての『ネオヨキオ』——「トランプ政権以降の世界」に対するヴェンパイア・ウイークエンド=エズラ・クーニグからの奇妙な問いかけ
登場する作品:『ネオヨキオ』
辰巳JUNK
#10
そもそも、世界に物語はひとつしかない。極論すれば、すべてのストーリーはひとつの祖型、つまり神話のバリエーションなのだ!
千の顔を持つ物語:「神話」こそがドラマ~『アメリカン・ゴッズ』『指輪物語』『マイティ・ソー』、何故次々と神話をモチーフにした作品が大人気を博すのか?
登場する作品:『アメリカン・ゴッズ』『ロード・オブ・ザ・リング』『マイティ・ソー』
丸屋九兵衛
#11
「人種という点でレプリゼンテーションに満足している」日本人の視点は、そういった意味ではアメリカ社会における白人の視点に近い。だからこそ海外のホワイトウォッシング議論も「原作に忠実であるべきか」「原作の発祥地である日本人は気にしているか」という点だけがとらえられがちだ
”イケメン”になったアジア人俳優は何と戦っているのか?:"代表"なくして視聴なし 前編
登場する作品:『ウォーキング・デッド』『ザ・ランナウェイズ』
塚本 紺
#12
勘違いしないよう付け加えるが、こうした地位にいる男性たちが悪意と差別意識に満ちた人間であるといいたいわけではない。しかし監督であれ脚本家であれ、芸人であれ、プロデューサーであれ「いいテレビドラマとは何か」「いいお笑いとは何か」を自分の人生経験から切り離して考えることはできない
なぜテレビは「差別表現」のルールを作れない?"代表"なくして視聴なし 後編
登場する作品:『ベター・ラック・トゥモロー』『ブラックパンサー』
塚本 紺
#13
世界ではテレビの生死が議論されている。従来のテレビ局が今後も存続していくことを望むのであれば、ネット放送に力を入れるのは必然的進化だろう。日本でも時折「ネット放送にテレビ放送は勝てるのか」などの記事が目につくが、そもそもテレビ放送もネット放送も「映像を視聴者に提供する」という点では同じものだ
テレビはネットを超えるべきか? “テレビ離れ”しない放送文化の作り方
登場する局:YLE NHK
abcxyz
#14
ベルリン国際映画祭は、#Metoo運動の浸透後初の大規模な映画祭であり、さまざまな反響が生まれた。今後、「白人男性の映画祭」とされてきたカンヌ国際映画祭や、ヴェネツィア国際映画祭でも同様の動きが見られることになるだろう。性的暴力を当然としてきた映画業界は、オピニオンリーダーである三大映画祭も巻き込んで、大きく変わろうとしている
「#MeToo」以降の映像文化は何を問いかけている? ベルリンで見えた転換期
登場する作品:『オフサイド・ガールズ』
SCQIC
#15
昨年まではNetflixとAmazonが価格を引きあげたために、資金力で勝負できないインディペンデント系のバイヤーが入り込む余地がなかった。しかし、彼らの不在によってマーケットがより開かれたものになったのだ
2018年、Netflix/Amazonビデオに起きた異変。映画祭で作品を買いつけなかった理由から映像文化の将来が見えてくる
登場する作品:『マッドバウンド』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
SCQIC
#16
海外ドラマの作品に対し、壁をなくしていく視聴スタイルを作りたいなと思っています。そのスタイルというのは「みんなでワイワイ見る」ことです。コメントももっと盛りあがるといいですね。作品そのものを楽しむだけではなく、視聴スタイルを楽しむ。今後はそういったことを海外ドラマでチャレンジしてみたいです
サブスク時代に無料で海外ドラマを流す「AbemaTV」の未来 番組編成部長に聞く
登場する作品:『フルハウス』『プリズン・ブレイク』
masumi toyota
#17
もう誰も見過ごせない! FUZEが選ぶ「進化し続ける2010年代の必須ドラマ:ベスト20」20-11位
#18
もう誰も見過ごせない! FUZEが選ぶ「進化し続ける2010年代の必須ドラマ:ベスト20」10-1位
#19
そんな中、数々の記録を塗り替え、歴史的な大成功を収めているマーベルの新作映画『ブラックパンサー』は、近年のブラック・コミュニティ発の表現を考える上で極めて重要な作品だ
映画『ブラックパンサー』は本当に傑作なのか?ーーブラック・ライヴズ・マター以降/トランプ政権誕生以降の「ブラック・コミュニティ発ドラマ表現」を巡って
登場する作品:『ブラックパンサー』『アトランタ』
小林祥晴
#20
現在、日本に移民はほとんど存在しないことにされているが、実質的には移民社会になりつつある。川崎区で起きている問題は、既に他の土地でも起きているし、やがて、日本全土を覆うだろう
格差社会、ラップ、移民、デマゴーグ——アニメ作品『DEVILMAN crybaby』のリアリティと、これからの日本
登場する作品:『DEVILMAN crybaby』
磯部涼
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Special Thanks
田中宗一郎 小林祥晴 岩﨑祐貴
目的と価値消失
#カルチャーはお金システムの奴隷か?
日本人が知らないカルチャー経済革命を起こすプロフェッショナルたち